2004-11-11 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
先月は東京国際映画祭のことをご紹介しましたが、
これを読んでくださっている高校生の人たちのなかには、
どのくらい映画祭に足を運ぶ人がいるのでしょうか。
いま東京で劇場公開される映画は、ものすごい本数。
それは、情報誌やウェブサイトを見れば、一目瞭然です。
でも、世界では、もっともっと、それ以上の多くの映画が作られています。
とはいえ、当然ながら、そのすべてが劇場公開されるわけではありません。
配給会社が映画を買い、上映し、それがビジネスとして成り立つという
見込みのある映画が、劇場公開される…というのが、通常なわけです。
そうすると、どうしても芸術性、創造性の高い映画というのは、
ハリウッド映画など娯楽性の高いエンターテイメント作品に比べると、
劇場公開される可能性が低かったり、公開規模が小さくなったりする……
では、そういう映画を観られるのは、いったいどういう機会なのかというと……
映画祭なわけです。それだけが映画祭の特徴ではもちろんないですし、
映画祭の持ち味は、その映画祭によっても異なるものですが、
そういう映画を体験できるというのも映画祭の大きな魅力なのではないでしょうか。
今月20日〜28日に、今年で5回目を迎える東京フィルメックスが開催されますが、
フィルメックスは、こうした魅力をたっぷりと味わうことのできる映画祭です。
大ヒットした『黄泉がえり』(2003)の塩田明彦監督の新作『カナリア』(2004)から、
アヴァンギャルドなアート色の強い監督の特集上映、
はたまた、世界ではあまり知名度の高くない日本の名匠を世界に紹介する特集上映まで、映画の可能性を探るクリエイティビティ豊かな作品が集まる、
ここでしか出会えない映画も多い映画祭です。
ラインナップを見ていてうれしいのは、
過去のフィルメックスでその作品が上映された監督たちの新作がいくつも上映されること。
ひとりの作家の活動をずっと応援しつづけるということ、
そして何より、作品を作り続ける監督たちの姿勢、
また、そうした監督たちの新作を楽しみにできるということ。
しあわせなことだなあ…としみじみ思います。
具体的にどんな作品があるかといえば、
第2回フィルメックスで『フラワー・アイランド』(2001)が最優秀作品賞に輝いた韓国のソン・イルゴン監督の新作『懺悔』(2004)。第3回の最優秀作品賞『ブリスフリー・ユアーズ』(2002)を手がけたタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の新作は、今年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した『トロピカル・マラディ』(2004)。第1回フィルメックスで『ジョメー』(2000)で審査員特別賞を受賞したハッサン・イェクタパナー監督の新作『終わらない物語』(2004)などが、今年のフィルメックスで上映されます。
それぞれの映画を観ていない人には、映画のタイトルだけ羅列されても何のことやら……だと思うので、過去の上映作品がビデオ化されている監督にも触れておきますね。
第1回フィルメックスで上映された、イランの巨匠モフセン・マフマルバフの奥様にあたるマルジェ・メシュキニ監督の『わたしが女になった日』(2000)、同じくイランのバフマン・ゴバディ『酔っ払った馬の時間』(2000)。この2作品はビデオ化されています (もしかすると、ビデオ化される際に多少タイトルが変わっている場合もあります)。それぞれの監督の新作『Stray Dogs(原題)』(2004)、『Turtles Can Fly(原題)』(2004)が、今年のフィルメックスで上映されます。
マフマルバフのご家族は、娘さんサミラ・マフマルバフ、その妹さんのハナ・マフマルバフも映画を撮っている、映画一家。このおふたりの作品『ブラック・ボード〜背負う人〜』(2000)、『ハナのアフガンノート』(2003/これは劇場公開時のタイトル、フィルメックスでは“Joy of Madness”のタイトルで上映)もそれぞれ、過去の東京フィルメックスで上映されました。マフマルバフの奥様メシュキニさんの初監督作である『わたしが女になった日』、面白いです。わたし自身、彼女の新作を観るのをかなり楽しみにしています。
ところで、これは映画に限ったことではありませんが、
何かを観て「面白い」と思えるのは、
「わかる」ことが前提になっている場合が多いと思うのです。
たとえば、まわりくどくて、何が言いたいのかわからない人の話を
延々と聞いていると、だんだんと意識が遠のいていくのが自然なことでしょうし、
難しい本も、わからないと、だんだん眠たくなってくる……。
多くの映画は、作り手と観客がコミュニケートできるようになっていて、
「わかる」から感動したり、共感したりして、きもちよく映画館を後にできるのだと思うのですが、中には、この「わかる」を前提にしていない映画もあるわけです。
そもそも、「わかる」って何?…となってくると、
だんだんと「アート」の方向へ向かって行くわけで、
頭のスイッチを完全オフにして、自分を忘れて、
とっぷり映画の中に入り込んでしまう「アート」映画の楽しみというのもある……
特集上映が面白いのもフィルメックスが楽しみな理由ですが、
(第2回のニルキ・タピオヴァーラの特集上映は、いまだに印象に残っています。
フィンランドの名匠なのですが、どこかで上映される機会があったら、ぜひ観てみてください)今回の特集上映もパワフルです。
まずは、ハンガリーのアヴァンギャルドな鬼才、ボーディ・ガーボル(1946−1985)。
ロカルノ映画祭で銅豹賞を受賞した『ナルシスとプシュケ』(1980)など3作品が上映されます。そして、カルト的な人気を誇るカナダのガイ・マディンの3作品も上映されます。
先日、日本でも劇場公開された『ギムリ・ホスピタル』(1988)、『アークエンジェル』(1990)の試写に行ってきたのですが、古い洋館のちょっと埃をかぶった部屋にそっと置いてあるオルゴールみたいな、ちょっと怖くて妖しい美しさ……とでもいいましょうか。ふしぎな可愛さとグロテスクさが共存する世界。この監督(来日します)にお会いしたことはないので、いい加減なことは言えませんが、成長過程でコミュニケーションじゃない方向に面白みを見出してしまった人(芸術家ですね)のピュアさと偉大なる幼児性を感じてしまいました。今回のフィルメックスでは、この2作品以降に作られた3作品が上映されます。吉田戦車の漫画が好きな人は、ちょっと気になる世界かもしれません。ええ!いきなりそっちに行くのですか!?みたいな感じ。かなり衝撃的です。
また、ダイナミックな作風で知られる
日本の名匠・内田叶夢(1898-1970)の特集上映も行われます。
昨年は、小津安二郎と同時代を生き、素敵な作品を数多く遺しながらも、
世界であまり知られることのなかった名匠・清水宏監督特集が行われ、そこから端を発し、今年のベルリン国際映画祭や香港国際映画祭でも清水宏作品が上映されることになったと聞いています。
今年は、内田叶夢。たぶん、いま高校生の人たちは、お母さんやお婆ちゃんに尋ねると、知っているはずです。この素敵なお名前は「トム」と読みます。
名作『飢餓海峡』(1965)をはじめ、スケールの大きな、ダイナミックでエネルギッシュな
13作品がフィルムセンターの大きなスクリーンで体感できます。
清水宏監督と同じく、国内での評価に比べて海外での知名度があまり高くない内田叶夢。
今年のフィルメックスから、どんな風にその波が広がっていくのか……楽しみです。
そのほか、フィルメックスでオススメしたいのは、シンポジウム。
会場もこぢんまりしていてアットホームだし、観客とゲストが近くていいのです。
毎日、上映される映画にちなみ、さまざまなシンポジウムが無料で開催されるので
内容と時間をチェックして、ぜひ足を運んでみてください。
映画祭会場は、有楽町朝日ホール他。
普段は味わわないような、新たな映画のあり方に気軽に触れてみてはいかがでしょうか。
日常がいつもと違う角度から見える、新鮮なきっかけになるかもしれません。
公式サイト:http://www.filmex.net