2004-10-28 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
いいですねえ、こういう映画…。
本当のきもちは、伝えたくてたまらないことほど、言葉にならないもの。
家族のあいだのそういうことを、こんな風に映画にすることができる…いとおしい作品。
エイプリルというのは、主人公の女の子。年齢は、20代くらい。
火事を起こしたり、ドラッグに走ったり…家族と合わずに何かと反発してきた彼女は、
いまは家を出てニューヨークで黒人のボーイフレンドと暮らしている。
そんな折、家族の中でも特に折り合いの悪い母親が、病気で余命わずかだと知った彼女は、
感謝祭(サンクス・ギビング・デー)に、七面鳥のローストを作って
お婆ちゃん、お父さん、お母さん、そして二人の兄弟を招待することを決める。
料理なんて、ほとんどしたことがない(だろうことが彼女の料理ぶりからうかがえる)エイプリルと、彼女を誠心誠意、手助けしようとするボーイフレンド、ボビー。
朝、なかなか起きてこない彼女を、ボビーがあのテこのテでたたき起こすという、
ごくリアルな日常から、その日は始まる。

この映画は、そんな感謝祭の1日を描いた物語。
ローストの料理中にオーヴンが壊れ、
アパート中を歩き回ってオーヴンを貸してくれる人を探すエイプリル。
その間、笑っちゃうことから困っちゃうことまで、さまざまな出来事が彼女に起こる。
助けを借りたアパートの住人たちに、彼女は彼女の家族の話をする。
一方で、エイプリルの家に向かう彼女の家族も、
車中で、エイプリルについての思い出話をする。
といっても、それは、ちょっと困ってしまうようなもの。
家族とそりの合わなかったエイプリルについては、皆、戸惑いがある。
そんな戸惑いをもっとも感じるのは、お母さん。そして、お母さんがちょっと困った人。
困った人なのだけれど…
お母さんを演じるのは、パトリシア・クラークソンという女優さんなのだけれど、
この映画の彼女は、
ちょっとYOUさん(日本人の、あのバラエティなどで活躍中の)みたいで、
不思議なかわいさというか、不良っぽさというか…を放っていて、それが絶妙なバランス。
一歩間違えたら、観ている人を不愉快にさせてしまう難しい役なのだけれど、
彼女が演じることで、母親の戸惑いが、ぜんぜん「お涙ちょうだい」じゃなくて、
絶妙な距離感で、圧倒的に伝わってくる。ある場面の彼女の表情が、圧倒的なのです。
病気で余命がわずか…という描写がステレオ・タイプじゃなくて、
ものすごくリアリティがある。日常に溶け込んでしまっている感じ。
ざらついた、ぬくもりを感じさせる映像の自然なトーンによるところも大きいのだけれど、
とってつけたものが何も登場しない映画で、
わずか80分のなか、それぞれの登場人物の何気ないその日の断片が集まって、
家族の物語が浮かび上がる。原題は、“Pieces of April”。
エイプリルを演じるのは、『ケイティ』(2002)のケイティ・ホームズ。
お母さん役のパトリシア・クラークソンは、
『エデンより彼方に』(2003)や『ドッグヴィル』(2003)などに出演している。
そして、監督は、
こちらもグっとくる家族の物語『ギルバート・グレイプ』(1993)の原作小説の作者であり、
脚本も担当したピーター・ヘッジズ。これが監督デビュー作にあたる。
公式サイトは、http://www.gaga.ne.jp