2004-10-07 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
エンド・ロールが流れ終わっても、
なかなか席を立てず、しばらくその余韻の中にいたくなる……。
今月9日に公開される『モーターサイクル・ダイアリーズ』はそんな映画です。
モーターサイクル・ダイアリーズ……つまり、「オートバイ日記」。
これは、後にキューバ革命の指導者となった、チェ・ゲバラの若き日の旅の記録。
彼がカストロと出会い、革命に参加した後の著書は数々あるが、
これは、彼が政治的なことに関わっていく以前のもの。
この手記(『チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』の名で日本でも出版されている)と、彼とともに旅をしたアルベルト・グラナードの手記をベースにして作られたのが、この映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』。

23歳の医大生だったゲバラ。
裕福な家に育った喘息もちの青年が、
中学時代の同級生の兄であるアルベルトとともに、南米大陸縦断の旅に出る。
幾度も派手に故障する、アルベルトのポンコツ・オートバイに乗って……。
旅立ちの朝。
家族が心配そうに見守るなか旅立ったふたりは、早速バスと衝突しそうになる。
危なっかしいが、その姿は若い頃の清々しい無鉄砲さと、計り知れない希望に満ちている。
わずかな所持金と、夢を抱えたふたりの青年の旅……
ユーモアにあふれていて、ほほえましく、そして観ていてなんだか胸が熱くなる。
出発したばかりのふたりは、何度もオートバイを故障させ、派手に転びながらも、
女の子と出会い、人々と出会っていく。
それは、若い旅の楽しさにあふれている。
若い頃の貧乏旅行は、元気だ。
転んだって、故障したって、何でも楽しめてしまう。
宿に泊まる充分なお金を持っていないふたりは、
アルベルトの口のうまさのおかげで、
行く先々で出会った人々に泊めてもらったり、食事をご馳走になったり……
そのひとつひとつの出来事も楽しい。

やがて、南米大陸を北上していくに連れ、
ふたりは、それまでの裕福な暮らしでは接することのなかった人々に出会ってゆく。
南米のさまざまな地で、貧困の中で生きている愛すべき人々と、
偏見も何のフィルターも通さず、ひとりひとり心から向かい合うゲバラ。
ひとつひとつの出会いは、正直な彼の心をたしかに動かしていく。
道中で出会った愛すべき人々……
その人たちのために、自分がすべきことがある。
そう確信した、
ラスト・シーンのゲバラの、成長し、強い意志にもえた、まっすぐな瞳。
それは、出発の朝の表情とは明らかに違うもの。
彼がなぜ革命に参加したのか、何が彼を動かしたのか、
そのひとつひとつの出来事が、自然な流れで、現地の空気感にあふれ描かれていて、
あまりに魅力的。すっかり引き込まれる。
ちなみに、
この映画は、その出来事が起きた実際の場所で、
順撮り(映画の脚本の順番通りに、撮影が行われること)で撮影されている。

純粋で、驚くほど正直。
熱くて、理想に燃えている。
そして何より、人々への愛に満ちている……
そんなゲバラを演じたのは、
『アモーレス・ペロス』、『天国の口、終わりの楽園』のガエル・ガルシア・ベルナル。
監督は、『セントラル・ステーション』のウォルター・サレス。
そして、製作総指揮は、ロバート・レッドフォード。
思い出しただけで胸が熱くなる……
『モーターサイクル・ダイアリーズ』は9日から恵比寿ガーデン・シネマにて公開される。
公式サイト:http://www.herald.co.jp