2004-09-23 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
朝夕はだいぶ涼しくなってきた今日この頃。
夏の疲れが出ているのか、気温の変化についていけないのか、
この時期はどうも「まったりモード」です。皆さんはいかがでしょうか?
そんな秋の夜長に、部屋でゆっくり観たいビデオ作品をご紹介している今月。
今日とりあげるのは、甘酸っぱい青春映画『あの頃、ペニー・レインと』(2000)。
(原題は“Almost famous”)
1970年代初頭を舞台に、ロックを愛する普通の15歳の少年が、
「ローリングストーン」誌のライターとしてデビューを飾る……
売り出し中のロックバンドのツアーを取材することになり、全米中を同行する彼が、
初恋や初仕事……たくさんの「はじめて」を経験し、
成長していく様子を、好感のもてる自然な温度で描いたこの作品。
物語のもとになったのは、この作品の監督であるキャメロン・クロウの実体験。
彼自身、15歳で音楽ジャーナリストとして雑誌に記事を書き始めた経歴の持ち主なのです。
映画が始まって、出演者やスタッフの名前があらわれ始めると、
それが、ノートに手書きでつづられていく鉛筆の文字。
この手作りな「ぬくもり」が、この映画全体の正直なあたたかみを表していて、
これから始まる素敵な物語を予感させます。
主人公は15歳の少年、ウィリアム。
彼は、お母さんとお姉さんとの3人暮らし。
大学で心理学を教えているお母さんは、並外れた厳格な性格。
お姉さんがデートから帰ってくれば、いちいち詮索。
ロックのレコードを持っていれば、そんなものを聴くなんてと猛反対。
最年少でウィリアムを弁護士にしようと、
なんと彼に、彼の実年齢を偽って飛び級までさせている……
そんなお母さんに反発してお姉さんは家を飛び出します。
でも、お姉さんはウィリアムにひっそりとロックのレコードを残していくのです。
「ろうそくを灯しながら聴くと、未来が見えるわよ」という書置きを
レコードのジャケットに挟んで……。
10代の頃、聴いた音楽の鮮烈さが、その人の人生を決定づける…
音楽でも、絵画でも、小説でも……その瞬間のトキメキが描かれていて、胸が高鳴ります。
ロックに魅せられたウィリアムは、自分で書いた学校新聞の記事を
「クリーム」誌の編集長であるロック・ライターのレスター・バングスに送ります。
それを気に入ったレスターは、なんと彼に初仕事を依頼します。
「批評家として成功したければ、正直に、手厳しく書くことだ……」という大切な言葉とともに……。
さっそく「クリーム」誌の取材をするため、楽屋を訪れたウィリアム。
しかし、何のやり方も知らない彼は、冷たくあしらわれてしまいます。
そんなとき、彼が知り合ったのが、楽屋口に集まっている女の子たち。
彼女たちを単なるグルーピーと決め付けた彼に、
なかでも、ひときわ目を引く美しい女の子、ペニー・レインが堂々と言います。
「わたしたちは、グルーピーじゃないの。バンドを愛するバンド・エイドなの」。
そうこうするうちに、やってきたのは、
売り出し中のバンド「スティル・ウォーター」のメンバーたち。
「評論家は敵。俺たちはファンのために演奏するので、悪いね」と去っていく彼らに
その場でバンドへの熱い思いを伝えたウィリアムは、彼らに気にいられ、楽屋の中へ。
この夜、出会った「スティル・ウォーター」とペニー・レイン。
このふたつの出会いが、これからの彼の数ヶ月を豊かに彩っていくのです。
やがて、彼の書いた記事が「ローリングストーン」誌の編集者の目に留まり、
彼は、「スティル・ウォーター」の全米ツアーに同行取材することになります。
各地について回る、お母さんからの電話と
旅に同行する「バンド・エイド」のペニー・レインたちとともに……。
時におかしく、時に深刻なバンドのメンバーのぶつかりあいに戸惑ったり、
ペニーのことで心揺れたり、
初めて「ローリング・ストーン」誌に長い特集記事を書く緊張を味わったり、
親子の葛藤があったり、
世の中の厳しさを知ったり、
いろいろなゴタゴタの中で、涙が止まらなかったり……
15歳の背伸びをしない、正直なウィリアムが、
ひとつひとつの出来事を、まっすぐに受け止めていく様子が、
思わず笑ってしまう描写を散りばめながら、爽快に描かれていきます。
ツアー同行取材を終え、久しぶりの家のベッドに戻ったときの、彼の安らぎ。
旅から戻ったときの、あのきもち。
ひと回りも、ふた回りも大きくなったウィリアムの表情。
見終わったあと、あまりにもいい気持ちになる
愛すべき、さわやかな青春映画です。