2004-09-09 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
先日の台風はものすごかったですが、皆さんの住む地域は大丈夫でしたか?
まだまだ日中は蒸すものの、夕方になると風が涼しくてきもちがいいこの季節。
夏の間は、とにかく天気がよかったので、外へ!という気分でしたが、
秋の訪れとともに、室内で過ごすのも楽しくなってくるもの。
今日は、秋口に部屋で静かに楽しみたい映画をご紹介したいと思います。
別の仕事でこの映画を思い出すことがあり、久しぶりに観たのですが、
やはり、とても良かった…『蝶の舌』(1999)というスペインの映画です。
舞台になっているのは、1936年、ガルシア地方の小さな村。
主人公は、8歳の少年モンチョ。この子が、あまりにも可愛い。
喘息もちでナイーヴな彼は、学校に行くことを非常に恐れています。
「学校に行くと、先生にぶたれるから行きたくない」。
大人が聞くとほほえましいなあと思えるこの台詞ですが、
モンチョの表情は真剣そのもの。彼の恐怖は相当なもの。
勇気を振り絞って学校に行った彼は、
他愛のないクラスメートのからかいに戸惑い、困ったことになってしまいます。
家に戻った彼のもとを訪れたのは、老教師グレゴリオ先生。
モンチョに申し訳ないことをしたと、
心をこめて彼に謝りに来た先生に、モンチョは次第に心を開いていきます。
やがてすっかり学校に溶け込んだモンチョは、
両親や周りの大人たちの会話から
友達とともに、世の中のことを学びとっていきます。
神様のこと、男と女のこと、恋のこと…。
モンチョの歳の離れたお兄さんはサックスを習っているのですが、
レッスンについていったモンチョの言うことが気が利いています。
サックスを上手に奏でられないお兄さんに、
「女の子を抱きしめるように吹くのだ」という先生。
すると、横で見ていたモンチョがひと言。
「愛するように?」
見るものすべてが新しくて、好奇心でいっぱいのモンチョ。
少しずつ世の中のことを知っていく彼が、中でも夢中なのは、
大好きなグレゴリオ先生の授業。
先生の授業は、詩の朗読やジャガイモの原産国のこと、
ティノリンコというオーストラリアの鳥が求愛するときの話……
世の中の不思議や素敵なことでいっぱい。
モンチョは息をのみ、夢中になって、先生の話に聞き入ります。
中でも印象的なのは、蝶の舌の話。
「蝶の舌を見たことがあるかな?」先生はクラスの子供たちに話しかけます。
それは象の鼻のように伸びて、ゼンマイの鋼のようにくるくると巻かれている……。
先生は、子供たちを緑豊かな木々の中に連れ出し、そのことを教えてくれます。
スクリーンに映し出される緑の風景が美しく、
自然描写が、まるでその香りが伝わってくるように瑞々しく描かれているところも、
この映画の素敵なところ。
純粋なモンチョの目から見た世の中に、
わくわくしたり、切なくなったり、心を揺さぶられるこの作品、
ところが、ラストではスペイン内戦が始まり、モンチョの大好きなグレゴリオ先生が……。
このラストには、思わず胸が詰まって涙が出てきてしまいます。
スペイン内戦をテーマに幼い子供の目線から描かれた映画では、
ほかにも、ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』(1973)という作品があります。
この映画も、すばらしい。
どちらもビデオ屋さんでよく見かける作品です。
じっくり映画を観たい秋口に、楽しんではいかがでしょうか?