2004-08-12 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
7月の後半に、このサイトでもご紹介した映画『父と暮せば』。
この映画の公開を記念して、監督である黒木和雄が手がけた作品の特別上映があります。
期間は今週末14日〜20日まで、場所はテアトル池袋。
上映される作品は、『父と暮せば』のメイキングも含め、一挙13本。
その中から、『父と暮せば』に因み、この映画で父・竹造を演じた原田芳雄主演の3作品をここでは取りあげてみたいと思います。この3作品、共演の石橋連司とのコンビネーションにも注目です。
まずは、『竜馬暗殺』(1974)。坂本竜馬が暗殺されるまでの3日間を追った作品なのですが、「歴史モノかな?」というような予想を立ててこの作品を観たならば、きっとうれしく予想を裏切られるはず。なぜなら、この映画に登場する原田芳雄演じる坂本竜馬は、とても身近でイキイキとリアルだから。互いに相手が自分を殺しにやってくるのではないかと戦々恐々しながらも互いを殺せない、石橋蓮司演じる幼なじみの男とのやりとりは、おかしくて、愛嬌があって目が離せない。ふたりの体に方言が染み付いていて、でもたまに「あれ?これ、ほんとに方言」みたいな自由なアドリブが出てくるのが微笑ましい。すごくライブでアドリブ感にあふれていて、リズムがある。高校生の人たちが見ても古さを感じないのではないでしょうか。そして、いまや伝説の俳優となった松田優作の若き日の姿が見られるのも興味深いところ。この3人の俳優が集まったところをカメラが後ろに回りこんで撮影された場面があるのですが、後姿でもカメラに向かって遊んで見せる松田優作の一瞬も無駄にしない感じも印象的です。黒木監督のなんだか「ロックな」感じが味わえる、イキのいい作品。
次は、『浪人街』(1990)。マキノ雅弘監督作をはじめ、幾度も映画化されてきたこの物語は、今年の5〜6月に、唐沢寿明、松たか子主演で舞台が上演されたことも記憶に新しい。舞台版の唐沢寿明が演じた荒巻源内(役名)もとてもよかったですが、この映画の原田芳雄演じる荒巻源内もすごく説得力がある。荒巻源内とは、この物語の主人公。酒呑みで女にだらしない、どうしようもない浪人の男。そんな源内に惚れてしまったのが、美しい、今でいう娼婦の女性、お新。樋口可南子演じるこのお新が、大人の女の魅力たっぷりで、このふたりがすごく魅せてくれます。物語の舞台は、幕末の荒廃した江戸の下町。どこに属するでも、何をするでもない、その日暮らしの浪人が溢れているような時代。浪人たちは、お新の働く酒場で昼間から酒を飲んでいる。ある時、夜鷹(娼婦)が次々に殺される事件が発生。犯人は、旗本の一味。そのうち、お新もその一味に捕えられてしまいます。そこへ、普段はすなおに気持ちを伝えることのできない源内が命を張ってお新を助けに行くのです。石橋蓮司演じる、お新に想いを寄せる硬派な浪人も助太刀で颯爽と登場。そして、勝新太郎演じる“牛”も加わります。ラストの立ち回りのシーン、夢中になって見ていたので時間がまったくわからなかったのですが、17分も続くらしいです。決して饒舌ではない不器用な男が見せるラストシーンにはグっときます。
そして、『スリ』(2000)。アルコール中毒でかつての腕はどうしたものか…という毎日を送っているスリの男。家出同然の女の子を娘のように可愛がって育て、スリの技術を教え、いまは彼女が「仕事」をしている…。そんな男が立ち直るまでの日々を、長年にわたって男との攻防を繰り広げてきた熟年の刑事(石橋連司)との絆や、娘のように育てた女の子の彼氏にスリの技術を教えたり、アルコール中毒から立ち直る会を主宰する女性とであったり…さまざまな人との関わりの中で描いた、渋い作品。女性を演じた風吹ジュンのもろくて、あやうい、大人の女のかわいさも印象的です。
この3作品を観ると、スクリーンを通して伝わってくる黒木監督と原田芳雄のコンビネーション、そして原田芳雄と石橋連司のそれにグっときてしまいます。あまり映画を観ない若い人は、石橋連司といわれてピンとこないかもしれませんが、サラリーマンの格好をした米倉涼子、矢田亜希子、佐藤江利子と共演しているコーヒーのCMで、上司の役をやっている人といったら、わかってもらえるでしょうか。劇団・第七病棟を主宰する俳優さんです。『竜馬暗殺』、『浪人街』『スリ』と、だんだんと年齢を重ね、豊かに変化していく二人の関係には、なんだか熱いものを感じてジーンとしてしまいます。
黒木監督の映画は、観ていて退屈することがない。
これは、そのときに本当に撮りたいもの、
撮るべきものを撮っているからなのではないか…と思います。
以前、『父と暮せば』の記者会見で、黒木監督は、
「自分の記憶にあるものを描きたい。いまは、どうしてもそれが戦争と重なる」。
だから、『TOMORROW/明日』((1988)、『美しい夏キリシマ』(2002)、『父と暮せば』(2004)の後も、きっと戦争の映画を撮るのではないかと言っていました。
本当に撮りたいものを撮る、撮るべきものを撮る、
その「勢い」が、ここに挙げたどの作品からも伝わってくる。
ここに挙げたどの作品も今回の特集上映で上映されるので、ぜひ出かけてみてください。
ほかにも『祭りの準備』(1975)など、見ごたえある作品が上映されます。
15日には、トークショーも開催されます。
テアトル池袋 03-3987-4311
http://www.cinemabox.com
