2004-07-01 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
この映画の冒頭シーン。
集合住宅の1階スペースに、さまざまな人々が行き交う。
カメラは、しばらく静かにそれを見つめる。
一見すると、私たちのよく知る、見慣れた中国の風景なのだが、
しばらく見ていると、その中に目を引くものが登場する。
たとえば、日本でもおなじみの宅配サービスの車。
行きかう人々の服装も、どこか現代的な雰囲気。
次のシーンで観客の前に現れるのは、交通量の多い大通り。忙しい都会の風景。
公開中の映画『上海家族』には、刻々と目覚しい変化を遂げていく、
現代上海の様子がありありと映し出されている。
主人公は、夫に浮気され離婚をした女性と、その一人娘。
この母娘ふたりが、自分たちの生き方を模索し、生活場所を見つけていく様子が、
祖母や再婚相手など周囲の人々との関わりの中で、いきいきとリアルに描かれている。
最後にふたりが採った選択は、現代上海の状況、そして今後を示唆するものだろう。
女性の生き方を見ると、その社会の成熟度がわかる…というわけで、
住宅事情をはじめ、変わりゆく中国社会を見るという点でも面白いし、
普遍的な母と娘の物語として見ても、リアルでユーモラスな描写に共感してしまう。

監督は、ポン・シャオレンという1953年生まれの女性。
この監督、上海の人々の日常生活にあらわれる「近代化」の描写が、さり気なくて巧い。
たとえば、主人公である母親が夫と言い合うシーン。
その喧嘩には、隣の部屋で娘が見ているらしい、
パソコンのインターネットにつなぐ音が何気なくかぶっている。
また、男の子たちがサッカーをする場面があるのだが、
そこでは、彼らの足元だけを映すショットがさり気なく挿入される。
最先端のハイテク・スニーカーを履いている子もいれば、
昔ながらの履き古したスニーカーの子もいる。
足元だけで、登場人物の置かれた環境と、上海の近代化を見せてしまう細やかな描写だ。
日常にさり気なく登場し、いまや市民権(?)を得て当たり前のようにそこにある、
宅配サービス、インターネット、ハイテク・スニーカー……。
ポン・シャオレンは、上海の日常に存在する「もの」を通して、
変化しつづける現代上海の息吹を活写する。
また、この作品、カメラが登場人物に「肉薄」しているのも印象的だ。
フレームの中に大きく映し出された母や娘、その他の登場人物のリアルな表情からは、
監督の人間に対する、ひいては自分自身へのごまかしのない強い姿勢がうかがえる。
現代の上海を知るうえでも、
母娘のことを考えるうえでも、そして女性の生き方を考えるうえでも、
パワフルで見ごたえのある作品。
岩波ホールにて7月30日まで公開。