2004-06-17 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
突然ですが、フリーランスで仕事をしていると、ちょっと困ることがたまにあります。
そのひとつが、マンションなど不動産の契約。
名の知られた企業に勤めていれば、簡単に事が済むのに、
「わたしは怪しくないですよ〜」ということを証明するために
いろいろと説明をしなければなりません。
相手の立場に立てば、まあわからんでもないのですが、そんなとき、ふと思ったりします。
「企業の名前だけで、果たして、どのくらいその人のことがわかるのだろう…」。
今日、ご紹介する映画『吠える犬は噛まない』は、
ちょっとブラックでシュールな笑いが炸裂するパワフルな映画。
でも、その根底には、このふとした疑問がひたひたと流れているような気がします。
マンションで起きた、あやしげな犬・連続失踪事件。
その犯人が、実は、大学教授のポストに就くために賄賂を渡すことに戸惑いを感じ、
妻に養ってもらいながら、煮え切らない毎日を送る非常勤講師の迷える男。
彼は、大学教授という、社会的に見ればとても信頼のある職に就けるにも関わらず、
自分の境遇に、限りなくブルーな感情を抱いている。
一方、
「あんたの代わりなんていくらでもいるんだから」と、
いやーなことを上司から言われてしまう、
マンションの管理事務所で経理を担当している女の子が、
英雄になることを夢見て、犬・連続失踪事件の犯人逮捕に燃え、キラキラしている。
誰もがぶつかる理想と現実のギャップ。社会の矛盾。
まったく正反対に見えるこの二人のキャラクター。
でも、観ている人は、そのどちらにも共感をおぼえてしまうのではないでしょうか。
世の中の矛盾をするどく突きながらも、
全編を、ハイスピードなジャズで彩り、観客をスリルと爆笑の渦に巻き込みながら、
最後はホロリとさせてしまう、その手腕には目を見張ってしまいます。
この映画は、韓国でも大ヒットし、先ごろ日本でも公開され、
多くの観客をうならせた秀作『殺人の追憶』のポン・ジュノの監督デビュー作。
『吠える犬は噛まない』の原題は、『フランダースの犬』。
あの日本のアニメの主題歌を、主人公が熱唱するシーンも登場します。
ポン・ジュノは、日本のアニメや漫画も好きでよく観ているのだそう。
たしかに、この映画は随所にコミック的な要素を感じさせます。
この物語、先ほど触れた
「大学教授にならんとする男」「管理事務所の女の子」のほかにも、
ハードボイルドな(?)「彼女の相棒」や
地下のボイラー室を愛する「あやしげな警備員」、
千切り大根を愛する「おばあさん」など、絶妙に変てこな人々が次々に登場。
そして、最後には、その人物たちが見事につながり、観客の胸にある感情を残します。
きっと観終わったあと、
これまで観た韓国映画の、どれとも違う感覚をおぼえるのではないでしょうか。
ビデオ・DVDもリリースされている『吠える犬は噛まない』。
笑いの根底に、「現代社会」を浮かび上がらせる、力強い作品。
笑えて、ホロリとくる。この絶妙な映画体験、ぜひ体感してください。
ちなみに、
この映画で管理事務所の女の子を演じているのが、
韓国でも若い層を中心に人気を得ている女優、ペ・ドゥナ。
彼女が演じる女の子が、
不器用で真っ正直で、なんともいとおしく、観ていて応援したくなってきます。
くるくると変わる表情と、どこか不安げな表情が魅力的な彼女。
そんなペ・ドゥナの日本公開最新作『子猫をお願い』が6月26日に公開されます。
この映画のために来日した際、インタビューにも答えてもらったので、
その模様も、このコーナーでお伝えします。お楽しみに!
劇場公開時のホームページ:http://www.hoeruinu.com
黄色いトレーナーを着て、
鼻にティッシュを詰めている(!)かわいい女の子が、ペ・ドゥナ。