2004-06-10 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
今日ご紹介する映画は、昨年のNHKアジア・フィルム・フェスティバルで上映され、この春から今週金曜日まで東京・恵比寿の写真美術館で上映中の『アフガン零年』。
アフガニスタンのセディク・バルマク監督が手がけた、タリバン政権崩壊後はじめてのアフガニスタン映画です。
今週末から上映館が変更されるので、まだ観ていない人にぜひ観てもらいたいと思い、映画祭のときにお伺いした監督のインタビューとともに取りあげることにしました。
2003年のカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督作品)特別賞、2004年のゴールデン・グローブ賞で外国語映画賞を受賞するなど、各国の映画祭でも賛辞を浴びたこの映画。舞台は、タリバン政権下のアフガニスタン。
当時のアフガニスタンでは、女性のひとり歩きが禁止。女性が働くことも学校に行くことも許されていない状況下、新聞に載ったあるニュースがバルマク監督の耳に入ります。それは、「学校に行きたい少女が少年のふりをして学校に行ったのだが、それがばれてしまい、罰されてしまったというものだった。これを映画にしようと思ったんだ」。
「アフガン人の悲しみを伝えられるのは、アフガン人である自分たちだ」。バルマク監督は主人公の少女役の女の子を探して、ストリートチルドレンたちが読み書きなどを習うために通う施設を訪問。数多くの少女に会ったといいます。そんな折、監督が道端で出会ったのが、悲しみをたたえた瞳が印象的な物乞いの少女。彼女が、この映画の主人公を演じることになるマリナでした。
昨年放映されたNHKスペシャル『マリナ』。この番組は、戦争によって家族を失い、5歳から物乞いをしつづけ家族を支える当時13歳だったマリナの様子と『アフガン零年』の撮影風景を伝えています。絶望が支配する彼女の日々の様子は、番組を見終わったあと、しばらく何も手につかないほど胸に突き刺さる。戦争のことを尋ねられると、彼女の目から涙がこぼれおち止まらなくなる様子は、見ていて本当に辛い。この映画の中では、彼女の味わってきた悲しみがマリナの全身からあふれ出し、わたしたちにこの時代のアフガニスタンの状況を痛いほど伝えています。

『アフガン零年』より
物語は、女性たちのデモが鎮圧される場面から始まります。女性が外出することが禁止となり、唯一の働き手である母親が仕事をすることができず、食べていくことが困難になった家族。そこで、マリナ演じる少女が、少年のふりをして働きに出ることになります。男の子のふりをするために彼女が髪を切る描写が、痛い。ばれたら罰されてしまう危険な行動。脅えながらも、マリナは戦争で亡くなった父親の友人のもとで頑張って働きはじめます。ところが、宗教儀式でのふとした出来事から彼女が少女なのではないかという疑いがかけられてしまい、それが明らかになったとき彼女は…。
深い悲しみを描き、観る者の胸に突き刺さる作品ですが、同時にこの映画はとても詩的で美しい映像で綴られています。バルマク監督は旧ソ連軍のアフガン侵攻後、1982年から87年までモスクワのフィルム・インスティテュート VGIK(ヴェギック)で映画を学んでいた経歴の持ち主。
「そこでは、本当にたくさんの映画を観たけれど、黒澤明や小津安二郎など日本の巨匠たちの映画もよく観ました。詩的なものの見方をするという点で、自分たちの感覚に近いものを感じました」。
幼い頃からも、よく映画を観ていたのだそう。
「映画はアフガニスタンで幼い頃から毎日、見ていました。学校を抜け出してね。
インドやアメリカの映画をよく観たし、フランスやイタリアや香港の映画も観ましたね」。

セディク・バルマク監督
「脚本を書いたりしたのは、学校で舞台用の脚本を書いたのが初めて。それは14、5歳の頃でした。映画を初めて撮ったのは、8ミリで10分の短編映画を作ったもの。自分のカメラでね。若い少年が、ビリヤードをやる物語で『ビリヤード』という映画です」。
映画を愛するバルマク監督が、初めて観た映画は『アラビアのロレンス』(1962)。すっかり映画に魅了された彼は、幼い頃から映画館の映写室にもぐりこんでは追い出されていたという。陽の光を光源に、小さな木箱による映写機を自分で作ったこともあるというから驚き。映画の話になると、バルマク監督の口から、すごい勢いで興味深い話が流れ出てくる。誰かが何かを本気で愛する様子は、本当にいいものだと思う。
この映画で印象的なのが、髪を切った少女が鏡に映る場面。その鏡、そして鏡の登場の仕方などが実に詩的で美しい。そして、そこに映った少女の顔があまりに深い悲しみを湛えていて言葉を失ってしまう。
インタビュー中、話が終わらぬうちに終了時間が訪れた際、「また時間をとってもいい」と熱くはたらきかけてくれたバルマク監督。撮るべきものをたしかに抱える彼の勢いはものすごく、それはマリナの瞳を通して、この映画を観る私たちに痛切に訴えかけてくる。
『アフガン零年』は、今後、以下で上映予定。
キネカ大森(6/19〜7/2:モーニングのみ)03−3762−6000
下高井戸シネマ(7/31〜8/13:モーニングのみ)03-3328-1008
横浜シネマジャック(8/7〜8/20)0120-198-009
シネマアートン下北沢
(8/14〜8/20-特集上映の一部なので、毎日の上映ではありません)03-5452-1400
千葉市生涯学習センター(9/4夜のみ)043-207-5811
詳しくは、『アフガン零年』公式サイト :http://www.uplink.co.jp/afgan
ちなみに、この映画の製作にはイランの名匠モフセン・マフマルバフが資金面、撮影機材やクルーなどの面で広く支援している。
「マフマルバフの支援は本当にありがたいものでした。それによって、この映画の製作を始めることができたのだから」。
マフマルバフを知らない人には、『サラーム・シネマ』(1995)をぜひ観てもらいたい。彼が製作する映画のオーディションに集まった人々とマフマルバフ監督のやりとりを追った、フィクションともノンフィクションともつかない、やけにハイテンションなこの作品。マフマルバフの人柄がビシビシと感じられて本当に面白い。
ちなみに、マフマルバフの家族は、妻も娘も息子も家族全体で映画に従事しており、その多くが自らの監督作をもつ。そんなマフマルバフ・ファミリーのふたりの娘であるサミラとハナの監督作が、近々日本でも封切られるので、触れておきたい。
サミラ・マフマルバフ監督作は『午後の5時』。そして、そのメイキングであるハナ・マフマルバフ監督作『ハナのアフガンノート』だ。それぞれ、銀座テアトルシネマにて『午後の5時』は7月3日から、『ハナのアフガンノート』は6月19日から(こちらはモーニング・ロードショー)公開される。こちらもアフガニスタンの女性を描いた映画。
ホームページ :http://webs.to/ginza/afgan