2004-05-27 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
今日、ご紹介するのは、先週末に公開された『トロイ』。この映画、ハリウッド映画をよく観る人はもちろん、普段あまりハリウッドの大作映画は観ないという人にとっても面白い作品なのではないかと思います。

『トロイ』より
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というのも、この作品がハリウッドにありがちな完全懲悪モノではないから。いまからおよそ3000年も前の時代に描かれた叙事詩『イリアス』をもとに、敵同士として戦い合うスパルタとトロイ−その両者の戦士、彼らを愛する家族の悲しみがていねいに両側から描かれています。
メガホンをとったのは、『U・ボート』(1981)のウォルフガング・ペーターゼン。監督は、この映画ではブラッド・ピットが演じたスパルタの戦士アキレスのキャラクターに惚れ込んでいたと言います。
「15歳のときに初めて『イリアス』を読んで、ひとりのキャラクターに非常に魅了されました。それがアキレスです。アキレスは独立心が強く、反逆児であり、それと共にとてもダークな、傲慢でアグレッシブな面ももっている。戦士としては半分人間で半分神様でもあるという存在として描かれていて、人を脅かすような面もスイートな面も、強い面も弱い面も持っている。いろいろな面があるところに惹かれました」。
アキレスというキャラクターについては、ブラッド・ピットも、
「極端な面と、そのまた対極の極端な面を持っている。僕は、そういう人間に惹かれるんだ。アキレスは、自分の中にコントラスト−葛藤がある。強いが弱さもある。幅があるところに惹かれたよ」。

来日記者会見時のブラッド・ピット。今後やりたい役柄については
「アイコン的な役柄と、その逆の役柄、どちらもやりたい。そのバランスでやっていくと思う」。
体調不良をおしてマスコミの前に現れた彼は、ジョークも交えて数々の質問に答え、自ら写真撮影の時間まで設けた。
いろいろな面において、つくづくバランスのよい人。
ブラッド・ピット演じるアキレスは、郡を抜いて強い無敵の戦士。だが、彼は言う。
「自分が倒した相手の顔が、夜、頭に浮かぶんだ」。
ただ強いだけではないアキレスの一面。彼は、選ぶまでもなく気づけば戦士となっていた、逃れられない自らの宿命に立ち向かい、葛藤し苦悩しつづける。
そのクライマックスともいえるシーンが、アキレスが『アラビアのロレンス』(1961)の名優ピーター・オトゥール演じるトロイの王と話し合う場面だ。
「あの場面は、原作の中でも脚本の中でも重要なところ。あのシーンで、この物語は復讐劇を超えるんだ。敵と敵とを隔てる線が消される。互いに大切な人を失った者同士としてね。あのシーンは、この映画への出演を決めた理由のひとつだよ」とブラッド・ピット。
ピーター・オトゥールの瞳は、深い慈悲をたたえていて、物語の冒頭で彼がスクリーンに登場した時から心を動かされてしまう。ピーター・オトゥールを初めて見るという若い観客もその凄さにはハっとしてしまうはずだ。
アキレスの宿敵となるトロイの王子へクトルを演じたのは『ハルク』(2003)のエリック・バナ。オーストラリア出身の俳優で、頼もしい王子へクトルをとても魅力的に演じている。
「『イリアス』が世界中で読まれているのは、どの時代にも共通する普遍性があるからだと思う。脚本も原作も読んだが、僕にはとても演じやすかった。そこに描かれているのは3000年前の人間なのに、とても現代的な面が感じられたから」。
これについて監督も、
「3000年前にホメロスが記したこの物語が、いかに現代と共通する要素があるかを感じました。そして、ホメロスがいかに天才であったかも。ホメロスは3000年前に、いま起きていることを描いている…つまり、その当時と現代とで人間は何も変わっていないのだということが言えると思います。人間は、互いに情熱や愛を持っている。そして破壊というものも持っている。そして、それが戦争につながってしまう。それが人類の悲劇だといえると思います」。
そして付け加えた。
「『トロイ』を観ると、戦いをして誰も得する者はいないということがわかると思います。すべてが失われてしまうだけ。それはいま行われている戦争も同じだと思うのです」。
巨額の予算を費やしたスケールの大きな映像、魅力的なキャストで描かれる2時間43分。目の前で広がっていく、まったく飽きる暇を与えない壮大な物語に身を委ねてみてはいかがでしょうか。
公式ホームページ:http://www.troy.jp