2004-04-29 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
南北戦争によって別れ別れになった恋人同士。ふたりにあるのは、わずかな思い出だけ。しかし、ふたりはその思い出を胸に戦下の惨状を生き抜く。もう一度愛する人に会うために…。今日、ご紹介するのは、いま公開中の映画『コールド・マウンテン』です。

『コールド・マウンテン』より
監督は『イングリッシュ・ペイシェント』(96)でアカデミー9部門に輝いたアンソニー・ミンゲラ。この監督ならではの叙情的で美しい映像が、この『コールド・マウンテン』でも広がります。主演は昨年『めぐりあう時間たち』(02)でアカデミー主演女優賞に輝いたニコール・キッドマン、『リプリー』(99)や『A.I.』(01)のジュード・ロウ。そして、ニコール演じる、お嬢様育ちの主人公エイダを支えるタフな女性を演じるのが、この作品で今年、アカデミー助演女優賞に輝いたレニー・ゼルウィガー。

監督のアンソニー・ミンゲラとレニー・ゼルウィガー
来日記者会見にて
『ブリジット・ジョーンズの日記』の公開時にも来日を果たしたレニー・ゼルウィガー。弾けるような可愛らしさを披露した彼女ですが、『シカゴ』(02)の熱演を経て、このたび『コールド・マウンテン』のキャンペーンでふたたび来日。さらに風格の備わった美しさを感じさせてくれました。
「アンソニー・ミンゲラのファンで、あの美しい映画にいつか出たいと思っていました」というレニー。
「わたしにとっては、アメリカの南部の文化的にも共感できる地域を描いている作品。(自身が演じたルビーという役について)映画の中でこれだけ成長するキャラクターは珍しい。彼女の子供っぽくて、何事にも躊躇しないところが好きです」。
アンソニー・ミンゲラ監督は、彼女の魅力をこう言います。
「今日は、どんな彼女と会えるのだろうと思わせてくれるところ」。
映画の舞台は、ノースカロライナ州のコールドマウンテン。かつて恋人同士だったインマンとエイダは、この土地で出会い、恋におちる。間もなく南北戦争が始まり、インマンは戦地へ。その間、インマンの帰りを心待ちにし、コールドマウンテンで暮らし続けるエイダだが、唯一の家族であった父親がこの世を去ってしまう。お嬢様育ちで、生活の役に立つことなどするなと教わってきたエイダ。やがて、生活の術を知らない彼女は、今日・明日の食べ物にも困るように。それでも、この地にインマンが帰ることを信じてやまない彼女はコールドマウンテンを動こうとしない。見かねた隣人が、彼女のもとにルビーという逞しい女性を向かわせる。エイダは、ルビーのおかげでみるみる農場の仕事を身につけ、生きる力を備えていく…。次第に生命力を感じさせ輝きを増していくエイダの活き活きとした表情には、引き込まれてしまいます。
一方、戦地で負傷し病院へ送り込まれたインマンも、エイダに会うことだけを夢見て故郷コールドマウンテンへ向かう。命の危険と隣り合わせの状況を潜り抜けて…。
この映画をこのコーナーでお勧めしたいと思ったのは、ただの甘いラブストーリーではないから。この作品は、3人の登場人物を中心にした、それぞれの人生の物語でもあるのです。苦境を乗り越え、たくましく成長する3人。しかし、苦境を生き延びるために、かつての純粋さは失ってしまう…。大人になるってどういうことだろう、成長するってどういうことだろう…その陰陽、両面が描かれている、そこが素晴らしい。
ちなみに、アンソニー・ミンゲラ監督は、ニコール演じるエイダは「空気、空」のイメージで、レニー演じるルビーは「大地」のイメージで、衣装や動き方などを考えていったそう。エイダには、浮遊するような、ふわふわとした感じを、それに対してルビーには大地に根ざしたような印象をもたせられるようにしたといいます。

ジュード・ロウ
来日記者会見にて
また、レニー・ゼルウィガーとアンソニー・ミンゲラ監督のほかに、一足遅れで来日したのがインマンを演じたジュード・ロウ。アンソニー・ミンゲラ監督と組むのは『リプリー』(99)に続いて4年ぶり。
「アンソニーが友人であり、同時に、素晴らしい映画監督であることが、とてもうれしい。彼は、俳優として、人間として、自分でも気づかない、自分の中にあるものに気づかせてくれる人です」。
この作品については、
「人間は逆境にぶちあたると、魂の力、何でも乗り越える力がわいてくる。これは、そういう物語。演じる自分自身も魂の旅をした、そういう映画です。インマンという人物のモラリティ、シンプルな生き方、真実を追い求める姿勢にインスパイアされました」。
そして、
「これは歴史の物語ですが、現代にも通じるところがあります。
そして、素晴らしいラブストーリーでもあります。愛が、人間が生きていく根源的な力になる。あのふたりの関係は、(南北戦争が始まり、別れ別れになる前の)キスで始まるけれど、最後にはその愛がふたりの人生そのものになっていくのです」。
また、俳優として心がけていることを訊かれたときには、
「自分を常にオープンにして間違うことを恐れない。わからなければ正直にそこで言うことにしている。そこで遠慮しているといけない。結局、間違っていたら、やり直さなければいけないのだから。若い人たちに言うのも、自分の意見を言いなさいということ」。
魅力的なキャストたちによる人生と成長の物語。そして、ひたむきなラブストーリー。2時間35分の長さも感じさせず、ドラマの中にいざなわれます。
『コールド・マウンテン』HP:http://www.coldmountain.jp/