2004-04-15 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
新しい出会いに満ちた4月。
ワクワクすることも多い反面、何かと気を張ることも多いはず。
そんな日々のなか、時間の流れが少しだけゆっくりと感じられるような、
じっくり、ゆったりとした映画を今日はご紹介します。
タイトルは『真珠の首飾りの少女』。
17世紀のオランダを生きた画家・フェルメールの遺した1枚の絵画。
頭には青いターバンを巻いて髪の毛を覆い、耳には真珠の耳飾りをしている。
やさしさと憂いをおびた彼女の表情からは、
キャンバスのこちら側から彼女を見つめるフェルメールとのドラマを想像させる…。

これが、フェルメールの遺した
「青いターバンの少女」と呼ばれている作品
『青いターバンの少女』と呼ばれている実在のこの絵画をもとに、
アメリカ出身で現在はイギリス在住の作家、トレイシー・シュバリエが、
この少女とフェルメールをとりまく物語を紡ぎ上げた原作小説。
それをもとに映画化されたのが、この作品です。
モデルになった少女の繊細な心の動きを通して、
フェルメールを取り巻く当時の環境や生活ぶりが、
光と影に彩られた、絵画のように美しい映像で描かれていく。
その美しさには、うっとり引き込まれるよう…。
引き込まれてしまうのは、映像が美しいからだけではありません。
当時のていねいな暮らしぶりが描かれているところも素敵なのです。
クラシックの名曲や名画……当時のヨーロッパの芸術に触れると、
「どうして、こんなに美しい音楽や絵画が誕生したのだろう」と思わされますが、
この映画に描かれている当時の人々の暮らしぶりを見ていると、その理由が伝わってくるような気がします。
17世紀のオランダ。
現代ほど機器が発達していない、シンプルな日々の暮らし。
人々のていねいな手仕事ぶり。
現代ほど動きやすい衣服ではないゆえの、女性の動きの美しさ。
石造りの台所にていねいに切り分けられていく野菜の美しさには、思わず見とれてしまうし、
フェルメールのアトリエの、高い位置にあるために、細長い棒を使わなければ開けることのできない、大きな窓を開ける少女の仕草も、
大きな釜に重曹を入れて、煮立てて行う洗濯の様子も、
この時代の仕事は、すべて手仕事で、
心を入れずに、スイッチを押すだけで何気なくできてしまうことがないためか、
ひとつひとつの仕草が、自然なゆったりとしたリズムを刻んでいて、
うっとりと引き込まれてしまいます。
日々、くりかえし行っている日常生活のさまざまな事柄を、
あらためて、見直して楽しんでみたい…
この映画を観ているうちに、そんな気分になりました。
さて、話を映画の物語に進めたいと思います。
フェルメールの絵画のモデルになった、この映画の主人公は、
フェルメールの家に使用人として雇われた、17歳の普通の少女グリート。
フェルメールの家は子だくさん。
妻は、必死に家計をやりくりしていますが、家計は火の車。
そんな状況下、フェルメールはグリートの繊細な美意識に気がつき、
自分のアトリエで、彼女に絵の具の調合を頼むようになります。
それを知ったフェルメールの妻は、彼女に嫉妬しますが…。

『真珠の首飾り』より
普通の少女の心の動きをていねいに追うことで、
約100分、適度な抑揚をつけ、観客を飽きさせず、
これだけドラマチックに描いた手腕も、なかなかです。
監督は、これが初監督作品となるピーター・ウェーバー。
脚色に、BBCのドラマ・シリーズなどで活躍するオリビア・ヘトリード。
撮影監督に『髪結いの亭主』(90)を手がけたエドゥアルド・セラ、
プロダクション・デザインを『コックと泥棒、その妻と愛人』(89)のベン・ヴァン・オズ。
そして、少女グリートを演じているのが、スカーレット・ヨハンソン。
以前から、主人公の娘役で登場した『モンタナの風に抱かれて』(98)や
コーエン兄弟が手がけた『バーバー』(01)、『ゴースト・ワールド』(01)などでみせた演技と存在感が印象的だった彼女。ここに来て、それに磨きがかかっています。
この春、彼女の出演作が日本で続けて公開されるのですが、そのうち1本が今日ご紹介した『真珠の首飾りの少女』。そして、もう1本が『ロスト・イン・トランスレーション』。

『ロスト・イン・トランスレーション』より
この作品は、巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘であるソフィア・コッポラが監督・脚本を手がけている東京を舞台にした話題作です。今年発表されたアカデミー賞では、オリジナル脚本賞を受賞しました。心のプライベートな部分にそっと届くような映画で、私たちの知っている東京が、ソフィアから見た新たな視点で描かれていて、「ああ、たしかに、日本人ってこういうところあるかも…」と気付かされます。
ソフィアといえば『ヴァージン・スーサイズ』(99)。映像も音楽もストーリーも、すべてが融和して、なんとも素敵な世界が広がっている作品です。言葉にならない、形にはならない、でもとどめておきたいきもち、感じ…それを愛すべき映像でみせてくれるソフィア。この『ロスト・イン・トランスレーション』も、人には説明しづらい、でも自分の中にしっかりと刻まれているきもちが、ほんわりとに呼び起こされます。
『真珠の首飾りの少女』『ロスト・イン・トランスレーション』、この2作品、ぜひ劇場に足を運んでみてください。
『真珠の首飾りの少女』は現在、公開中。http://www.gaga.ne.jp/pearl/
『ロスト・イン・トランスレーション』は4月17日より公開。http://www.lit-movie.com/
なお、フェルメールの絵画が展示されている
<フェルメール「画家のアトリエ」栄光のオランダ・フランドル絵画展>も、
本日から7月4日まで東京都美術館、
7月17日から10月11日まで神戸市博物館で開催中です。