2004-04-08 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
入学式を迎えたり、新たな学年に進級したり…あらたな節目を迎えるこの季節。みなさん、おめでとうございます。そんな時期にぴったりの映画を、今日はご紹介します。

映画『スパニッシュ・アパートメント』より
(C)2003 Twentieth Century Fox
その名も『スパニッシュ・アパートメント』。『猫が行方不明』を手がけた、フランスのセドリック・クラピッシュ監督の作品です。
主人公は、パリに暮らす25歳の大学生クサヴィエ。卒業を来年に控え、将来をどうしようか決めかねている。小説家に憧れている気持ちもあるのだが、経済的な安定も捨てがたい。とりあえず、父親のコネでお役所の偉い人と会ってみることに。偉い人が言うには、これからはスペイン語とスペイン経済を学ぶと、将来有望だという。そうか、それなら…とスペイン・バルセトナへの留学を決意するクサヴィエ。欧州交換留学プログラムの“エラスムス計画”を利用するため、手続きをとろうと奔走するが、必要な書類は多いし、窓口はたらいまわしにされるし…ああもうなにがなんだか!!それでも、彼は無事、出発の日を迎える。淋しがる恋人(大ヒット映画『アメリ』の主演女優オドレイ・トトゥが演じている)を残して…。母親の前ではしっかりと挨拶してきた彼も、空港のゲートを抜けてひとりになった途端、涙が溢れ出す。この感じ、とても初々しい、なんだか懐かしい。
クサヴィエを演じるのは、『猫が行方不明』(96)、『ガッジョ・ディーロ』(97)、『パリの確立』(99)の演技が評価されている俳優ロマン・デュリス。彼のごく普通で、どこか頼りない若々しい個性は、将来を決めかねているクサヴィエと同世代の人たちの共感も誘うだろうし、もうとっくにこの時期を過ぎた大人たちにも、その頃の感情を甘酸っぱく思い起こさせる。
そんなクサヴィエの留学生活が幕を開ける。まず、見つけなくてはならなかったのは住むためのアパート。探し求めた末に彼が見つけたのは、家賃を浮かせるために、ヨーロッパのそれぞれ違った国々出身の5人の男女が共同生活をしている“スパニッシュ・アパートメント”だった。クサヴィエを自分たちのアパートに招きいれるかを決める面接の際にも、活発に議論する5人を見て、彼はこれこそが自分の求めていた環境だ!と実感する。念願叶って、“スパニッシュ・アパートメント”での生活が始まったクサヴィエ。言葉も背負ってきた文化も違う人たちの共同生活は、ちょっと面倒なこともあるけれど、それに勝って余りあるほどに充実したものだった…。
大学の講義、友達との何気ない会話、恋愛談義、そして恋…。日々、心を揺らす出来事に満ちているクサヴィエの大学生活が活き活きと描かれていて、すっかり引き込まれてしまう。この映画には、国籍も育ってきた環境も違う、実にいろいろな学生たちが登場するが、皆、すなおに互いと向かい合い、互いの個性を緩やかに受け止めている。そこが、おおらかで、やさしくて、あたたかい。そして、かなりエキサイティング!
私事で恐縮なのだが、私が学生時代を過ごした大学は、各国からの、特にアジアからの留学生や先生を多数受け入れている学校だったので、言ってみればアジア版“スパニッシュ・アパートメント”のような環境で日々を過ごした。住む場所までは共にしていないが、留学生の人たちと一緒にゼミに参加したり、他愛のないことから真剣なことまで本当にいろいろな話をした。皆、国籍も違えば、個性も違うので、「留学生の人たち」と一括りにするわけにはいかないのだが、彼らとの交流には、しっかりとストレートにその人自身と向かい合える感じがあったように思う。国籍などのバックグランドや「何が常識か」という価値観も飛び越えて、そこにあるのは、その人自身の個性だけ。その人自身がどうかということ。腹をわって真正面から向かい合えるストレートな交流は、ぶつかることもあるけれど、それに勝る楽しさがあるもの。ちょっと最近、人間関係にナーバスになっているなあ…なんて人にも、ぜひお勧めしたい映画です。