2004-04-01 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
今日、ご紹介する映画は『蛇イチゴ』という作品。
昨年、劇場公開された作品で、この春にDVD(発売は4月23日)が発売されます。
この映画には、
一見したところ、ごく普通の家族に見える、ある一家が登場します。
その一家に起きた出来事が、
かなりコミカルに、わりと辛辣に、そして相当ファンキーに描かれています。
その家族の描写が、実にパワフルなのです。
誰もが、心のすみに引っかかりつつも、
うまくバランスをとって、やり過ごそうとする、
家族との日常の中に生まれる小さなトゲのような感情…
そのトゲに目を逸らさない。
笑いの中に、ドキっとするような辛辣な描写があったりして。
微妙な均衡の上に成り立っている「家族」の実態が、しっかりと掴まれています。
そこが、ものすごい。
身を乗り出して「おお!」と観て、最後にはググっときてしまいました。
この映画に描かれている「明智家」は、どこにでもいそうな、ごく普通の家族。
サラリーマンの父親と、
痴呆が始まってしまったお舅さんを献身的に介護する専業主婦の母親、
そして、教員をしている、しっかり者の長女の4人暮らし。
父親と長女は、同じ電車で一緒に通勤し、長女は同僚の教師との結婚も控えている。
順風満帆な明智家の日常。
ところが、その水面下では…
ぐつぐつと煮えたぎる明智家のマグマが、いまにも噴火しようとしていた…。
毎朝、出勤する父は、実はリストラにあったことを家族に言い出せず、
会社の元同僚からお金を借りて、なんとか生活をしのいでいた。
そして、舅を介護する母も、その生活に疲れ果て、
彼女の頭には、小さな10円はハゲができているのだった…。
そんな明智家の秘密が、一気に露呈する出来事が起きる。
介護をしていたお舅さんが亡くなり、明智家の葬儀が執り行われた、ある日。
あるお寺のトイレから出たところで、
長女・倫子は、よく知るある人物とばったり鉢合わせする。
「お兄ちゃん!」
それは、
10年前に家を出て行ったきり音信不通になっていた長男・周治だった。
てっきり、実兄が祖父の葬式を聞きつけ、戻ってきたものだと信じて疑わない倫子。
しかし、その実、周二は香典泥棒(!)で、
この日も、まさか自分の祖父の葬式だとは知らずに会場に紛れ込んでいたのだった…。
時を同じくして、葬儀会場には、父親の作った借金の取り立て屋が現れる。
父親のリストラを知り、借金取りの恐怖に怯え、
ショックと驚きの渦に陥れられた明智家の面々は、成すすべもない。
そこへ、長男・周二がひらりと現れ、
口八丁のでたらめ口上で、その場を丸くおさめてしまう。
これをきっかけに、10年ぶりに周二は明智家の門をくぐることになるが…。
周二を演じるのは、雨あがり決死隊の宮迫博之。
生真面目な妹の倫子に、つみきみほ。
観客の度肝を抜く母親に、大谷直子。
父親に、名バイプレーヤーの平泉成。
一家を構成する、このひとりひとりの人物描写、リアリティがすごい。
監督・脚本は、この作品が監督デビュー作になる、1974年生まれの若手監督・西川美和。
ちなみに、この監督、
大学在学中にテレビ番組製作会社の新人募集に応募した際、その面接官が、
後に『幻の光』、『ワンダフルライフ』などの映画を手がけた是枝裕和監督で、
監督の目に留まったことが映画の世界への入り口になったのだそう。
なんだか、ワクワクする話です。
圧倒的な家族のリアリティ。
ラストシーンも、私は大好きです。
なぜ、タイトルが『蛇イチゴ』なのか…それがわかる頃には、ググっときてしまうはず。
必見です。