2004-02-19 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
節分も過ぎ、気候も体も春を迎える準備をはじめるこの時期は、
まさに季節の変わり目。
「なんだかやる気が出ない」など、
体調や精神的にも、どうも調子がイマひとつ…という人もいるのではないでしょうか。
外に出かけてみたり、楽しい映画を見たりしても、どうもしっくりこなかったりして…。
そんな時は、ムリせず、家で人生についてゆっくり考える映画を見てみるのも、よいもの。
…ということで、今日、とりあげるのは、
アカデミー賞にも輝いたイタリアの名匠ベルナルド・ベルトルッチの名作
『ラスト・エンペラー』です。
中国最後の皇帝・愛新覚羅溥儀の生涯を描いた、この作品。
とにかく、その映像美には目を見張ってしまいます。
この映画を見て数年後に、実際に北京にある紫禁城を訪れたのですが、
実際の紫禁城は、この映画で観たのとはちょっと違う、もっと日常的な印象。
もちろん、とても広大でスケールが大きいし、興味深い体験だったのだけれど、
映画『ラスト・エンペラー』に登場する紫禁城は、
この映画の中でしか見られない姿なのだと実感しました。
もちろん、あの映画は、実際に紫禁城で撮影が行われたものですが、
カメラ・アングルや照明などを駆使して撮影された、
あのスペクタクルで壮大な美しさを放つ紫禁城の様子は、
この作品の作り手の目を通して見た風景、この映画でしか観られない風景なのです。
映画って、すごい…と、あらためて思わされた出来事でした。
作り手の見ている風景、その人のものの見方を追体験できる面白さ…
これは、もちろん写真や小説など他のジャンルにも通じることですが。
同じ風景を見ても、その風景に息吹を吹き込んでドラマを見出すことのできる
ものの見方、そんな心のありように、いたく感動をおぼえた出来事でした。
ちなみに、この映画で撮影監督をつとめているのは、
ベルトルッチの作品を手がけてきたヴィットリオ・ストラーロというカメラマンです。
さて、話を『ラスト・エンペラー』の物語に戻します。
中国最後の皇帝である溥儀。
幼い頃から皇帝として育てられ、
その後も激動の時代に翻弄されながら、
彼が固執する“しあわせの形”は、もと居た「皇帝の座」。
何かにとらわれたように生きる人間の悲しさ。
時代に翻弄されることの虚無感。
一瞬に宿る人間の真実、そのはかなさ。
美しい映像の中で、荘厳に、あまりにも過酷な人生が描かれる本作。
初めて観たときは、観終わったあと、しばらく何も手につきませんでした。
主人公の溥儀を演じるジョン・ローンも本当に美しく、
アカデミー作曲賞に輝いた坂本龍一の音楽もすばらしい、見ごたえある作品です。
中国が舞台なのに、なんで英語なの?…なんてこともふと頭に浮かんだりしますが、
そんなことは、軽々と越えてしまうほどの作品のパワーに圧倒されてしまいます。
この作品を観て、
ベルトルッチの様式美とでもいいたくなるような、誌的で品のある映像に心惹かれたら、
この監督のほかの作品も観てみることをオススメします。
彼が若い頃に撮った『暗殺の森』もすばらしい。
主人公の男の人生の空しさを美しすぎる映像で描いた衝撃的な作品です。
また、坂本龍一の音楽に心打たれた人は、
ベルトルッチ 監督 × 坂本龍一 音楽 の組み合わせによる作品をオススメします。
『ラスト・エンペラー』のあとに製作された『シェルタリング・スカイ』も、
ラストのひと言がいつまでも余韻となって胸に響く素敵な作品です。
荘厳なベルトルッチの世界。
ぜひ、体験して心を揺らしてみてください。
*お知らせ*
「第5回 NHKアジア・フィルム・フェスティバル」の上映作品が今週末から NHKハイビジョンでTV放映されます。
ここで放映される映画の監督インタビューも、このコーナーで予定しています。
詳しい日程は、先週のコラムをご覧ください。