コラム

BACKNUMBERRSS

映画を中心としたフリーランス・ライター。月刊『男の隠れ家』など数誌にて映画紹介を担当。 大学では、モンゴル語を専攻。研究テーマは、モンゴルの映画。

» プロフィール詳細
» コラム一覧


#012 『戀之風景』

2004-02-12 号

多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)

昨年12月に東京・恵比寿の写真美術館で開催された、第5回NHK アジア・フィルム・フェスティバル。この映画祭については、昨年末にこのコーナーでもご紹介しましたが、今日はそこで上映された映画『戀之風景』の監督インタビューをお届けしたいと思います。彼女の名前は、キャロル・ライ。すごく可愛い名前の監督、実際にお会いすると、とても爽やかで元気。その中にピュアで繊細な感性を秘めた素敵な女性でした。


映画『戀之風景』より(C)NHK
もともとTV局で映像に携わっていたというキャロル・ライ。映画監督デビューは『ファーザーズ・トイ』という短編映画だった。
「ちょうど30歳の頃だったのですが、やる気に溢れた若い人たちといっぱい出会う機会があって、わたしも何かやろう!と思ったのです。映画監督という仕事に目覚めたきっかけは、『ファーザーズ・トイ』という映画でした。この映画を撮ったことで、自分を再発見したのです。それまでの自分と明らかに違う次元に入ったような気がしました。監督として映画を撮るということは、自分の周りのことも、自分自身をも観察して、たしかめる作業なのだなと思ったのです。そして、この仕事をしていきたいと思いました」。


黒沢明や小津安二郎など巨匠の作品から、現代の監督まで
日本の映画もよく観ているというキャロル・ライ監督。
古い日本映画は、日本に来たときにDVDを買い込んで帰るそう。

そんな彼女の最新作『戀之風景』は、たゆたう映像が美しい叙情的なラブストーリー。主人公は、恋人が病気で亡くなってしまった女性。彼への思いを胸に、彼女は青島(チンタオ)を訪れる。恋人が描いていた未完成の絵を頼りに、そこに描かれている彼の愛した風景を探すためだ。彼女はそこで郵便配達の青年と出会う。青年は彼女に惹かれ、彼女の「風景探し」を手伝う。恋人への思い出を胸にとどめようと過去に生きる女性と彼女に思いを寄せる青年の探し物。はてして、二人が最後に見つけたものは何なのか—。

この映画、本当に映像が美しい。
「前作『金魚のしずく』がカンヌ国際映画祭に出品されて、ちょうどその頃、『戀之風景』の準備中で企画を練っていたのです。だから、わざわざパリに出かけて、たくさんの絵を見ました。絵は自分では描きませんが、見るのが大好きなのです」。
そして、映画全体を通して、たゆたうような、流れるような感じが心地いい。
「この映画の英語タイトルは“Floating Landscape”というのですが、原題よりもぴったりですよね。映画を見ていると、揺らいでいるような、浮いているような気分になる。愛って、こんなフィーリングだと思います。そして、人生もね。この映画を撮り終えて、『人間は水のように生きていくべきなのだな』と本当に思います」。

そんな彼女の生き方は、本当に水のようだなと思う。『戀之風景』を撮ろうと思ったきっかけを尋ねたときのこと。
「『金魚のしずく』を撮り終えたときは、自分の気持ちもどん底だったのです。沈んだ感じで。映画のストーリーがそうものだったので。だから、一転して元気になるハッピーエンディングの映画を撮りたいと思いました」。
そして、この映画を撮り終えた後は、この映画の全編で流れていたような、クラシックのピアノ曲を聴くことが多くなったという。それまで、そういう音楽を聴くことはなかったとそうだ。たゆたうように不確かな自分の感情に沿って、ていねいに作品を紡ぎだす。その動きは、まるで水のようだ。そして、自分の感情の流れの中から自然に次の作品が出てくるところが、なんだか女性らしいなと思う。
でも、彼女からは、決して感情の流れに溺れないというか、それをしっかりコントロールできる客観性が感じられて、きもちいい。『戀之風景』は、とても繊細な感情を扱った作品だけれど、観客との距離のとり方は絶妙。決してナルシスティックな印象は与えない。
「次に撮るのは、コメディなのですよ。だから、このまま『戀之風景』の“ピアノ曲のモード”を引きずりたくはない。次の映画では、パーカッションを使いたいなと思っています。次回作は、家族をめぐるコメディなのです。ドタバタ・コメディ。テンポが速くて台詞もすごく多い。カラフルな作品になると思います」。

カラフル—この言葉も、キャロル・ライの映画から受ける印象とつながる。彼女の映画は、いつも色彩がとても瑞々しい。
「敏感ですね、色彩に関しては。どの映画を撮る前にも、映画の基調を決めるのです。これまでの作品だと、『金魚のしずく』は赤。『戀之風景』は茶色。次のコメディは、緑とピンクに仕上げようと思っています」。


『グリーン・デスティニー』などの武侠映画も好きだとか。
「でも、あの映画の竹林でのアクション・シーンは嫌いです。
なんか、みえみえで、嘘っぽいじゃないですか!」
インタビューの途中、彼女は自分から、この映画の中で主人公の女性と彼女に惹かれる青年が探し続ける「風景」を、監督自身が見つけるまでの経緯を話してくれた。
「本でチンタオの風景写真を見つけて、これだ!と思って探しに行ったのです。そうしたら、その風景は木が切られてなくなっていたのです。それで、またいい場所を見つけたのだけれど、出かけて行ったら、また切られていた!マンションが建つからって切られてしまったらしいのです。でも、後から聞いたら、そんなマンション誰も住んでいないって。木をこんなに切ってしまって何てことをするのだって。そこで、さらに『風景』を探していたら、ある人が100年以上の樹齢の梨の木が果樹園にあると教えてくれたのです。見に行ったら、段々畑なのですよ。これは黒澤明監督の『8月のラプソディー』みたいだ!と思って、もう何があっても撮るしかないと思ったのです」。
この話を早口でイキイキと話してくれた彼女。感動や驚き、その時々に彼女が感じたであろう感情が、こちらにも新鮮にリアルに伝わってくる。心を動かしながら生きているなあと思う。その心の動きが、映画になって、私たちの心を揺らす。

香港でこの映画が公開されたあと、この「風景」を実際に見てみたくてロケ地を訪れる若い女性がたくさんいたのだという。この美しさ、実際に見たくなるのも、わかる気がする。
また、この作品は、主人公の女性、亡くなった恋人、郵便配達の青年…3人のキャストがうまく調和しているところも魅力だ。
「郵便配達の青年にキャスティングしたリュウ・イエに関しては、最初から決めていたのです」。
リュウ・イエとは、日本でも大ヒットした中国映画『山の郵便配達』に出演していた俳優だ。
「彼のことは『山の郵便配達』(99)を見て、印象に残っていました。自然で純粋な青年というイメージで。そして、香港でスタンリー・クワン監督の『藍宇(ランユー)』(01)のときに彼と会ったら、印象が全然ちがったのです。すごく大人でセクシー。彼なら、柔軟性があっていろいろな役を演じることができるなと思いました」。
ちなみに、スタンリー・クワンはこの映画のプロデューサーでもある。香港出身の映画監督で、『ロアン・リンユイ/阮玲玉』(92)、『ホールド・ユー・タイト』(98)などの作品が日本でも公開されている。

映画の全編を彩る、やさしくて瑞々しい音楽も印象的だ。音楽を担当するのは、日本人で、数々の映画音楽を手がけてきた梅林茂。
「彼とは昨日も飲んでいたのですよ。一緒に音楽を聴いたのですが、あらためていい音楽だなと思いましたね」。


質問をすると、リズミカルに歯切れのよい答えが返って来る。
でも、心の中の話をするときは、伏し目がちでていねい。
タフさと繊細さ、そのバランスが素敵だった。
この作品、残念ながら、日本での劇場公開は未定だ。しかし、今月25日には、NHK ハイビジョンで午後11時からTV放映される予定。ぜひご覧いただきたい。きっと観終わったあと、やさしいきもちになれるから。

なお、本映画祭の他作品も、TV放映される。
『アフガン・零年:OSAMA』 2月23日 午後11時から/2月28日 午後9時から
『ストーリー・ビギンズ・アット・ジ・エンド』 2月24日 午後11時から
『ハンター』 2月26日 午後11時から
『5 five〜小津安二郎に捧げる〜』 2月27日 午後11時45分から
いずれも NHK ハイビジョンにて(放映予定日時は、変更の可能性あり)

上記5作品の監督たちが参加したトークショーも放映される。
番組名は『アジア・フィルム・フェスティバル 〜監督たちからのメッセージ〜』
2月21日 午後9時から/2月28日 午後10時24分から NHKハイビジョンにて

なお、
インドからの作品『ストーリー・ビギンズ・アット・ジ・エンド』
カザフスタンからの作品『ハンター』については、
追って、このコーナーにて、監督インタビューをお届けする予定です。

映画祭について詳しい情報は、 http://www.nhk.or.jp/sun_asia/


Mammo.tv


  • HOME
  • mammo.tvとは
  • ヘッドラインニュース
  • インタビュー
  • コラム

  • ご要望・お問い合わせ
  • 著作権・免責事項
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ

Copyright© 2001-2011
Kotoh&Co.
All Rights Reserved.


PAGE UP