2004-01-29 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
その昔、『優駿』という映画があった。宮本輝原作の小説を映画化した1988年の作品だ。 “競馬→ギャンブル”という印象だった10代の私は、この映画を見て、一頭の馬をめぐってこんなにも様々な人間ドラマが繰り広げられていることに新鮮な感激を覚えた。

映画『シービスケット』より
現在公開中の映画『シービスケット』も、競馬を題材にした物語だ。一頭の馬“シービスケット”をめぐる人間ドラマは、あらゆる要素を含んでいて見ている人の心を動かす。この作品の舞台になっているのは、1920年代後半からの大恐慌時代のアメリカ。アメリカでの「家族」のあり方の変遷の中で、ひとつのターニング・ポイントとなった時代が描かれていることも興味深い。
この映画の主演をつとめるのは、『サイダーハウス・ルール』などで、そのイノセントな魅力を披露しているトビー・マグワイア。『スパイダーマン』の主演も記憶に新しい。今月13日、そんな彼の来日記者会見が開かれた。黒いセーターにジーンズというカジュアルな格好で登場したトビー・マグワイア。作品について、いろいろな話を聞かせてくれた。

記者会見前の写真撮影にて
今回、彼が演じるのは、髪が赤いゆえに“レッド”と呼ばれ親しまれている青年。幼い頃から乗馬の才能を認められていたレッドだが、ウォール街の株が大暴落したことから一家が破産。彼の才能を潰すまいと決断した彼の両親は、彼をひとり草競馬の世界へと残す。幼くして孤独の身となったレッドは紆余曲折を経て騎手となるが、彼の乗る馬である“シービスケット”は、なかなかレースで勝利をおさめることができない…。
「レッドは幼い頃に両親に捨てられていて、
自分ひとりで戦っていかなければいけない状況におかれてしまった。
僕には同じ経験はないけれど、僕もひとりの人間として、彼に共感できるところがある。
人間には守備本能というものがあって、自分を守ろうとする。
でも少し大人になってくると自分の周りに壁を作ってはいけないということに気づく。
その壁を壊して、もっと柔軟性のある自由な人間関係の中で
自分自身を活かしていくことを学ぶんだ」と、トビー・マグワイア。

記者会見当日に行われたジャパン・プレミアにて
左は騎手の武豊、右は女優の高島礼子
もちろん、この映画はレッドだけの物語ではない。なかなか才能を見出されなかった競馬馬のシービスケット、そしてその才能を信じ続けた馬主である大富豪、そして時代の変化によって車が普及し、馬の需要が減ったことにより、現在は馬の調教師をしているカウボーイの男。時代の煽りを受け挫折を味わった男たちの再生の物語でもある。なかなかレースで勝つことのできないシービスケットをあきらめず見守り続ける大富豪には、愛息を事故で失ったという辛い過去があり、幼くして両親に捨てられたレッドと大富豪の間には、親子の関係にも似た絆が生まれてゆく…。
「この映画は、人生に負けていた人が勝利をつかむスポーツものともとれるし、
悲しい過去を背負い、自分が生き抜くことで精一杯だった人間が、
他者と関係を築いていくことに目覚める人間ドラマともとれる。
あるいは父と子の関係を描いたドラマともとれるかもしれない。
競馬の場面はとてもエキサイティングで見る人はアドレナリンが出るだろうし、
僕自身が見ていて泣いてしまったシーンもある。
見る人の感性によって、いろいろな見方が出来る映画だと思う」。
実話をもとにした作品。登場人物たちがシービスケットを、そして自分自身を信じ続ける姿勢に勇気付けられる。
ホームページ:www.seabiscuit.jp/