2004-01-15 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
この映画、悲しい話ではないし、決してお涙ちょうだいの“泣かせモノ”でもないのですが、すごく気持ちが揺さぶられます。なんで泣いたのかわからないけれど、なんか泣けてくる…こういう作品を「いい映画」というのだろうと思います。
『がんばって いきまっしょい』。
これが、映画のタイトル。「なっちゃん」のCMでもおなじみの田中麗奈が主演している1998年の作品です。舞台は、いまから約30年前、1976年の四国・松山。主人公の悦子は、クリーニング屋を営む両親のもとで暮らす女の子。明日は、高校の入学式。両親は、京都大学に入学したお姉ちゃんをかわいがっていて、自分にはあまり関心がないみたい、という家庭環境。始まったばかりの高校生活では、テストで答案用紙に雪だるまを描き、怒りながら「何を書いているんだ」と問いかける先生を相手に、
「雪だるまです」。
「どういう意味だ?!」
「…手も足も出ない…」。
なんて会話を展開。廊下ですれ違う幼なじみの男の子には「相変わらずハードボイルドな人生送ってるな」と言われる悦子。どうにも、ままならない日常。
そんな彼女があるとき飛びついたのが、教室にやってきたボート部の勧誘。誘い文句に何かを感じた彼女は、そのボート部員を追いかけて、ひと言。
「ボート部に入りたいんですが」。
ところが、ボート部といっても、それは男子ボート部。悦子の高校には女子ボート部がなかったのです。がっかりする悦子。でも、それも束の間、彼女は思いつきます。
「ボート部がないなら、作ればいいんだ」。
それから、悦子の奮闘が始まります。自分ひとりしかいなかったボート部に、頼りないメンバーを集めて練習を開始。悦子の中で、何かが変わっていきます。
この映画が素晴らしいのは、単なる「ボートに青春をかける女の子たちの物語」ではないところ。ボート競技という、ひとつの大きな軸を通して、冴えない日常生活を送っていた悦子が自分自身に目覚めていく、彼女の成長過程が描かれています。悦子の挫折や戸惑い、不安…彼女の微妙な心の機微が、ていねいにリアルに描写されていて、見る側の心にひたひたと届く。戸惑いながらも、自分の場所でふんばる悦子の横顔に、なんというか人生を感じさせる…。
どの場面を切っても、悦子はありのままで、何の嘘もない。そのまっすぐさが、清々しい。そして、虚飾のなさは決して悦子だけではなく、この映画に登場する人たち、映画全体に及んでいます。作品全体から伝わってくる、その「本音」にググっときてしまいます。
いまは、すっかり大人の女性の魅力を感じさせる田中麗奈さんですが、この作品には当時だから発することのできた10代の彼女の魅力が溢れています。大人になるまえの女の子がもつ特有の雰囲気。若木みたいに細くて少年みたいで、何の虚飾もなくまっすぐで少し切ない…。
前半で頼りなかった女子ボート部員の、ラスト近くの頼もしい顔。素敵な作品です。