2003-12-18 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
いま、このコラムを読み始めるまでの10分間。
あなたは、何をしていましたか?
公開中の『10ミニッツ・オールダー』は、10分間の短編を集めたオムニバス映画。
参加しているのは、これまで素敵な映画を世に送り出してきた世界の名匠15人。
それぞれの監督が、それぞれの個性を感じさせる「10分間」を見せてくれます。

ジム・ジャームッシュ監督の作品『女優のブレイクタイム』より
『10ミニッツ・オールダー』はふたつの作品に別れていて、そのひとつは7人の監督たちが参加した『人生のメビウス』そして、もう一方は8人の監督による『イデアの森』。『人生のメビウス』は、その名のとおり、さまざまな場所でそれぞれに生きる人たちの人生の物語。『イデアの森』は、時間をテーマにした7作品。「時間とは…」「人生とは…」なんて、ひとりボーっと考えたり、哲学的な考えに思いを馳せるのが好きな人、フランス映画的なゆったりとした時間の流れが心地よい人は、『イデアの森』、好きなのじゃないかな。わたしも、こういう作品大好きです。が、ここに登場する監督たちの作品をあまり見たことがないという人には、より物語の面白さを味わえる『人生のメビウス』をお勧めしたいということで、ここではちょっと『人生のメビウス』について取り上げたいと思います。
アキ・カウリスマキ、ビクトル・エリセ、ヴェルナー・ヘルツォーク、ジム・ジャームッシュ、ヴィム・ヴェンダース、スパイク・リー、チェン・カイコー。『人生のメビウス』に参加している7人の監督たちです。こういった監督たちの映画は、ミニ・シアターで上映されることがほとんどなので、あまりなじみがないという人もいるのではないでしょうか。そんな人にも、この『人生のメビウス』、いい機会だと思います。それぞれの監督の個性が10分間に凝縮されているので。この7編を観て、「ああ、なんだか、このテイスト、好きだな」と思った監督がいたら、その監督のこれまでの作品を見てみると面白いんじゃないかと思います。
アキ・カウリスマキは『過去のない男』が今年はじめに公開されていた監督。『人生のメビウス』の中では『結婚は10分で決める』という作品を撮っています。刑務所から出所してきた男が、結婚するまでの出来事を10分間で描いているのですが、とにかく絵がかわいい。かわいげが詰まっている。言葉少なに、ほのぼのとした温かさをじんわりと漂わせながら、かわいい色彩で描いていく男の人生模様は、見終わったあと、ほっこりとうれしい気持ちになるのではないでしょうか。
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(わたしは、この作品が大好きです)の監督ジム・ジャームッシュが描いたのは、トレーラーですごす女優の休憩時間。10分間の休憩時間を過ごすひとりの女優の様子を、リアルタイムで10分間追った作品です。貴重な10分休みなのに、スタッフが次々と入ってきて、なかなかゆったり過ごせない。彼女の10分間をありのまま切り取ることで物語を感じさせる…この10分間の使い方にも、ジム・ジャームッシュの個性が出ています。
キューバ音楽のブームを世界中に巻き起こすきっかけとなった『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を手がけた監督・ヴィム・ベンダースの作品は、やはりビート。主人公の男の“バッド・トリップ”をビート感ただよう映像で描いています。
中国のチェン・カイコーが描いたのは『夢幻百花』。英語のタイトルは“100 Flowers Hidden Deep”なのですが、『夢幻百花』という漢字タイトルから浮かび上がる幽玄な美しさにうっとり。実写とアニメーションが混在した美しい作品です。チェン・カイコーは『さらば、わが愛/覇王別姫』という、とてもパワフルな名作を撮った監督。冬休みにでも、ビデオなどで観てみてはいかがでしょうか。
それぞれの監督が、どんな場所から何に向かって映画を撮るのか…それが10分間に凝縮されていて面白いです。
まずは、あれこれ考えず、それぞれの監督が見せてくれる10分間を楽しんでもらいたい。重要なことは、時間の長さよりも密度なのかも。10分間、侮れません。
『人生のメビウス』 恵比寿ガーデンシネマにて公開中
『イデアの森』 日比谷シャンテ・シネにて今月20日より公開
ホームページ:www.10minutesolder.com