2003-12-11 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
昨年のワールドカップで、キャンプ入りが5日ほど遅れて迎え入れる中津江村の人々をヤキモキさせたカメルーンの選手団のことは記憶に新しい。この件については理由があるものの、時間や約束に対する価値観というのは、国や地域、文化によってかなりの隔たりがある。たとえば、待ち合わせの感覚。「1時に待ち合わせ」と言われて、きっちり1時に人が集まる文化もあれば、1時と言われれば、2時に集まるのが暗黙の了解という文化もある。もっと言えば、同じ国内にいても、個人によって大きく異なることもある。こういうのを“異文化コミュニケーション”というのだろう。
自分とは違う価値観の人に出会った際、互いの主張を押し付けあっても何も始まらない。相手のバックグラウンド・文化性を知り、その中に相手の発言や行動を位置づけることで、相手がどうしてそういう行動に出るのか、理解の助けになることは多々ある。大切なのは、相手を知ることなのだと思う。
今月13日からNHKアジア・フィルム・フェスティバルという映画祭が始まる。NHKとアジアの国・地域が共同制作した映画を上映するこの映画祭では、これまで日本で上映されることの少なかった国・地域の映画も数々上映されてきた。今年のラインナップで見れば、初めて映画が制作されたというアフガニスタン、そしてカザフスタンの映画も日本で見るのは貴重な機会だろう。
他の国の文化を知るのには、いろいろな方法があるが、映画もそのひとつ。その地で暮らしてみなければわからない何気ない日常の習慣や食文化…その文化の核心は生活の何気ないところに隠れている。映画ではその地域の人々のリアルな暮らしぶりが描き出されるから、1本の映画を味わううちに、自ずとその地域での生活を擬似体験することができる。
1995年に始まり、以後、隔年で開催され、今年で5回目を迎える本映画祭。これまでに15の国・地域と共同制作してきた作品は、その数17本。そこへ今回、さらに5本の新作が上映される。それぞれ、アフガニスタン、インド、カザフスタン、香港、イランと共同制作した作品だ。
アフガニスタンの作品は、『アフガン・零年:OSAMA』。瞳が印象的なひとりの少女を通してタリバン政権下に暮らす人々の様子を描いた作品。語り口やテンポにどこか詩的な匂いがあり、頭であれこれ考えさせず、じんわりと心に訴えかけてくる印象的な作品だ。
インドは『ストーリー・ビギンズ・アット・ジ・エンド』。由緒ある裕福な家の主人の顔にある日突然あらわれたホクロ。日に日にホクロは大きくなっていく。いったい、なにゆえに…。美しい自然の息吹の中、ホクロを通して人間を問う、ファンタジックな作品。
香港は『戀之風景』。亡くなった恋人が絵に描いた風景を追い求め、中国・青島を訪れた女性の心模様を、瑞々しい風景描写で描いた作品。恋人の好きだった風景—“恋の風景”を追う、彼女自身の心のゆらめき—“恋の風景”が作品全体から薫り立つ。
カザフスタンは狼と人間との共生を描いた『ハンター』。イランは、『友だちのうちはどこ?』で知られる名匠キアロスタミが、今年で生誕100年を迎える名匠・小津安二郎へオマージュを捧げた『5 five〜小津安二郎に捧げる』。この2作品は、わたしもこれから観るのを楽しみにしている。
また、今までに本映画祭で上映された、見応えある3作品をスクリーンで観ることもできる。韓国のイ・チャンドン監督による『ペパーミント・キャンディー』、香港のフルーツ・チャン監督による『リトル・チュン』、台湾のチャン・ツォーチ監督による『きらめきの季節/美麗時光』だ。また、「サンダンス・NHK国際映像作家賞」受賞作品の上映も楽しみ。『ボスニアの青い空』は、観客との距離感が絶妙で思わずホロっときてしまう作品。主人公は、ユニセフ大使を装いボスニアを訪れた何やら怪しげな男と、厳しい状況下を生き抜く少年ギャングのボスである少年。ある出来事をきっかけに少年は男についていくことになる。次々に起こる危険な局面を切り抜けながら、ふたりの間には次第に絆が生まれていく…。時に対等な友達同士のように時に父と子のように助け合いながら、ポーランドへ向かうふたりの旅を描いた作品だ。
異文化の人と出会う体験はエネルギーも要るが、その分、視点をずらして相手のバックグラウンドを思いはかる楽しみをもたらしてくれる。それは、自分自身の「ものの見方」の引き出しがひとつ増えることでもある。
…そんな体験をこの映画祭でしてもらえたら…と思う。
映画祭ホームページ:www.nhk.or.jp/sun_asia/
*毎回、本映画祭で上映された新作は、翌年の初旬(2月下旬を予定)にNHK−BSで放映されています。映画祭に行かれない人も、その機会にぜひ観てみてください。