2010-03-11 号
多賀谷 浩子(フリーランス・ライター)
パリを舞台に複数の監督が短編を撮った
『パリ、ジュテーム』(06)という映画があったけれど、
こちらは、そのニューヨーク版といってもいいだろう。
同じくエマニュエル・ベンビイというプロデューサーが製作している。
どちらも、パリとニューヨークという、
ひとの数だけ様々な表情を見せる大都市を舞台に、
世界各国の監督たちが、広い意味でのいろいろな愛の物語を描いている。
けれど、大きく異なる点があって、
それは、パリとニューヨーク、ふたつの都市の違いでもある。
ひとつひとつのエピソードが
個として際立っている『パリ、ジュテーム』に対し、
『ニューヨーク、アイラブユー』は、
ニューヨークという土地に根差して
ひとつひとつのエピソードが切れ目なく続いていく。
それは、1本の作品を複数の監督が共作したという風情で、
何がやってきても、大きく受容してしまう、
ニューヨークという街の混沌(カオス)とぴったり重なる。
ひとつひとつのエピソードが、
ニューヨークのさまざまな地域を舞台にしていて、
人種も異なる、いろいろな年代、性別のひとたちの生活が、
この街のあらゆるところで息づいている。
それぞれのエピソードがパズルのようにはめこまれ、
ひとつの街が浮かび上がってくる。
ああ、ニューヨークだなと思う。

そんな風に、複数の監督が撮りながらも、
個々の作品がニューヨークの一断片を表し、
この街にしっかりと根をおろしながら、
1本の作品のように見えるのには、
プロデューサーサイドの巧い仕掛けがある。
この企画に参加した、
世界の監督たち11人に出された課題は、
● 視覚的にニューヨークと特定できること
● 広い意味での愛の出会いが描かれていること
● ストーリーの終わりや始まりに「徐々に暗転」を用いないこと
だったという。
特にこの3番目の、
暗転を用いないことによって、
ひとつひとつのエピソードが同じ背の高さで繋がって、
作品と作品の間に挟まれる
ニューヨークの日常スケッチの映像がのりしろになって、
この街のいろいろな場所で起きている
人間模様を描いた1本の作品に見えるのだ。
繋ぎ方で「ニューヨーク」が浮かび上がってくる、
見事なマジックにわくわくした。

ひとつひとつのエピソードも気が利いていて、
監督たちが楽しみながら撮ったのが伝わってくる。
冒頭は、『鬼が来た!』(00)というスゴイ映画を撮った
中国のチアン・ウェン監督のエピソード。
出演しているのは、
『スターウォーズ』のシリーズ2~3で、ダースベイダーになるまえのアナキン役を演じたヘイデン・クリステンセン、
そして、『ゴッドファーザー PARTⅢ』(90)のアンディ・ガルシア。
うまい役者たちが、余裕たっぷりに
楽しんで演じているのも、こういった短編企画の贅沢なところ。
このエピソード、
二人の男の「職業」をキーに、
鮮やかなトリックが仕掛けられている。
小気味よいリズムで、
短い間に多くの妙がちりばめれた、
洒落たラブストーリーになっている。
洒落たラブストーリーといえば、
自らも役者であり、
シャルロット・ゲンズブールの夫でもある
イヴァン・アタルの作品も、鮮やか。
『恋人たちの距離<ディスタンス>』(95)のイーサン・ホークと、
『ダイ・ハード4.0』(07)のアクションも鮮やかだった女優、マギー・Qが演じるのは、レストランの前で、ナンパをする男とされる女。
どう考えてもセクハラな、次々に発される男の言葉を、
余裕の笑みを浮かべながら、聞き流している女。
彼女の表情がキーで、
一体どんなオチがあるのだろう?と思って見ていると、
鮮やかにおとしてくれる。こういうのも、短編の妙!

『エリザベス』(98)を撮った
シェカール・カプールのエピソードも美しい。
白く研ぎ澄まされた空気のなかで描かれる、
このストーリーは、
5番街のホテルの一室を舞台に、
かつてオペラ歌手だった婦人と
若いホテルマンが織りなす物語。
脚本は『イングリッシュ・ペイシェント』(96)を手がけた、
いまは亡きアンソニー・ミンゲラ監督によって書かれたもので、
ミンゲラ監督が病に倒れた後、
カプール監督に映画化を託された作品なのだという。
ニューヨークの現代的なトーンとは
一線を画した、
情緒と気品にあふれた世界。
ふたりの監督の紡ぎだす「美」が重なって、
一瞬にして、映画のムードを変えてしまうのも面白い。

そして、台湾の女優、
スー・チーが出演している画家のエピソードも印象的だ。
スー・チーがスクリーンに映ると、
そこに物語が生まれる。
何も言わずにただ黙ってそこにいるだけなのに。
女優、だなぁと思う。
それぞれのいずまいで魅力を発する女優が見られるのも、
短編を集めた映画の楽しみなところ。

この映画を見て、好きなエピソードがあったら、
その監督の映画を見てみると、面白いと思う。
短いエピソードのなかに、
その監督が美しいと感じる世界観が
きもちよく凝縮されているから。
日本からは、
岩井俊二監督が参加している。
キャストも日本人ではないし、
ことばも英語だけれど、
どの作品が岩井監督の作品か、言われなくても、
あ、これかな?とわかるんじゃないかと思う。
それも、この映画のすてきなところ。
誰がどの映画を撮ったのか、最後の最後でわかる仕組み。
気が利いている。
公開中。
公式サイト:http://www.ny-love.jp/