1951年広島生まれ。81年「さようなら、ギャングたち」が群像新人長篇小説賞優秀作 に。 88年『優雅で感傷的な日本野球』(河出書房新社)で第一回三島由紀夫賞を、 2002年『日本文学盛衰史』(講談社)で伊藤整文学賞を受賞。
2007-09-05 号
高橋 源一郎(作家)
フルキャストという人材派遣の大手が、派遣が禁じられている業種に登録スタッフを派遣したとして、事業停止処分になった。驚いたのは、そのフルキャストという会社は、監督官庁から、これまでも繰り返し注意されていたということだ。要するに、法令違反していることを承知で、確信犯的に違反行為を続けてきたことになる。
この人材派遣関係の大手といえば、あの訪問介護最大手のコムスンを抱え、不正問題でついに譲渡するはめになったグッドウィルもそう。
どうやら、人材派遣業界には、「法律違反すれすれ」ではなく、「明白な法律違反でもオーケイ」という体質があるらしい。
そして、その「法律違反」の中身ははっきりしている。「搾取」である。金を奪うのである。限度を超えて、金儲けをしようとするために、「法律違反」をする。そして、その対象とは、人材派遣業界で働くスタッフ、すなわち、若者たちなのである。
ぼくは、いま、ある理由があって、「若者と労働」に関係する本をずっと読んでいる。
『生きさせろ! 難民化する若者たち』(雨宮処凛・太田出版)、『若者の労働と生活世界 彼らはどんな現実を生きているか』(本田由紀・大月出版)、『縦並び社会 貧富はこうして作られる』(毎日新聞社会部・毎日新聞社)、『雇用融解 これが新しい「日本型雇用」なのか』(風間直樹・東洋経済新報社)、『「ニート」って言うな!』(光文社新書)、等々。
読めば読むほど暗い気分になる。気がつかないうちに、日本で「働く」ということが、こんなにたいへんなことになっていたとは知らなかった。
ぼくが、いま十代で、たとえば、小説家志望で、正社員にはならず、アルバイトをしながら暮らしていこうと思ったら、待ち受けているのは、その希望を打ち砕くような現実だ。ぼくの教えている学生の中にも、大学を卒業しても定職にはつかず、アルバイトで食いつなぎながら、好きなことをして、そのうち、やりたいことを見つけたら、そちらに進みたいと思っている(というか、そう公言している)学生は多い。
ぼくは、そんな学生たちに、「それもいいんじゃないか」と気軽に返事をしていたが、調べれば調べるほど、そんなことを簡単にいうものではないと思えてきたのだ。
正社員の平均年収約400万円に対して、フリーターの平均年収100万円。ふつうに働いても、手取りは月に十万少々。保障もなければ、賃金が上がることもない。そして、いつクビを切られるかわからない。それがフリーターやアルバイトや派遣社員といった非正規雇用労働者の実態だ。
ちなみに、三十年も前、ぼくも二十代の頃、自動車工場を筆頭に、あちこちの工場に季節労働者として働きに出かけた。その頃に比べて、なんと、手取りは減っているのである(!)。
いったい、なぜ、こんなことになってしまったのか。日本の大会社が「史上最高の利益」を謳歌しているが、それは、どうやって産み出した利益なのか。いま、ぼくは、そのことを研究中なのである。詳しくは、また。