1951年広島生まれ。81年「さようなら、ギャングたち」が群像新人長篇小説賞優秀作 に。 88年『優雅で感傷的な日本野球』(河出書房新社)で第一回三島由紀夫賞を、 2002年『日本文学盛衰史』(講談社)で伊藤整文学賞を受賞。
2005-09-03 号
高橋 源一郎(作家)
というわけで、総選挙の投票日はどんどん近づいてくる。けれども、あいかわらず、よくわからない。
実は、ぼくが生まれたのは、広島県尾道市で、いまや話題の選挙区だ。そう、「郵政民営化法案反対派」の代表、亀井静香と「ホリエモン」が対決中なのである。それから、民主党の候補者や共産党の候補者ももちろんいるのだが、申し訳ないけれど、名前は知らない(だって、テレビを見ていても、映らないのだから)。
突如、舞い降り、「改革」というTシャツを着て演説する「ホリエモン」を、ぼくの親戚たちは、どんな風に「見物」しているのだろう。
その「ホリエモン」という人の書いた本を立ち読みしたことがあるのだが、「金さえあればなんでもできる」とか「新しく事業を始めないようなやつはバカ」といった刺激的な言葉が並んでいて、もちろん、それは資本主義社会の下ではなんの問題もないことばかりだから、自分の信条として発表するのはかまわない。でも、そういう信条を持っている人間が、尾道のような、緩慢に人口減少を続ける、典型的な地方都市から候補者として出て、どうするのだろう。それに、以前には確か「小泉さんの改革は不徹底」ともいっていたのに、それは忘れたのだろうか。「ホリエモン」も、資本主義社会が産んだ雄なら、自分でも一度は「不徹底」といった小泉さんの尻を押すような真似はせず、正直に「さらなる民営化」を訴え、新党でも作ればいいのではないか、とぼくは思う。
テレビに出てくる小泉さんは必ず「民間でできることは、公務員がやる必要はないんです」という。「民から官へ」である。彼が求めているのは、すべてに「効率優先」の世界なのだろう。確かに、その通り。ぼくたちの国は途方もない赤字を背負っている。ふつうの会社なら、とっくに倒産だ。しかし、国家だからといって、倒産しない保証はない。いま五十四歳のぼくはいいとして、きみたち高校生が、五十代、六十代になった時、いきなり「日本」が倒産し「すいません、年金はありません。国民健康保険も効きません。ゴミも収集できませんので、自分でなんとかしてください」といわれるかもしれない。それを回避するために、我々の側から、日産のカルロス・ゴーン社長のように、大胆な「効率優先」を提案すべきなのかもしれない。
もちろん、やり方は「なんでも民営化」だ。
たとえば、警察も「民営化」する。アメリカではとっくに、「民間刑務所」ができているのだし、日本には優秀な警備会社だってある。ええ?
それで、犯罪が増えたりしないか?
そう心配になるでしょ。大丈夫。一緒に、自衛隊も民営化してしまうのである。
だいたいにおいて、アメリカのように年中、戦争をやっている国と違い、日本の自衛隊は暇な時間が多い。だったら、その空いている時間を利用して、警察業務をやってもらえばいい。それでは、巨大な自衛隊を維持するお金にならないというなら、「国際傭兵部隊」を兼務して、そちらでも稼いでもらうのだ。すべて自前である。なにしろ、民間会社なのだから。
それから、各地方自治体も民営化だ。市民(や町民や県民)を前に、「予算は××億円でやります」と入札し、いちばん安く値段を提案したところを選べばいいのである。きっと、いろんな企業が、「県」や「市町村」の経営に乗りだすだろう。全国にユニクロや吉野屋やクロネコヤマトの「チェーン市」ができるかもしれない。
となると、国の政治の方だって、このままでいいわけがない。知人の田中康夫さんが「新党日本」を立ち上げたが、ぼくは、こういう公約を入れて戦うべきなのではないかと思うのだ。「衆議院の定数50人、参議院の定数25人、議員報酬は、国民の平均年収以内におさえます。安くて早い意志決定、注文を受けて30分以内にご返事します」
そんな党があったら、ぼくは投票しますけど。